残月47

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 はあ、と良太は一つ大きく息をついてから徐に口を開いた。
「まだわからないんですか? あなたにはこの業界でそんな権限も、実力もキャリアもない」
 二村はハッというような表情で良太を見た。
「既に事務所には連絡を入れてありますし、斎藤さんには先ほどあなたを降板させることをお知らせしました。支配人には最初に事情をお伝えしてあえてこのパフォーマンスをお願いしました。その間にあなたが思い直して事実を話していればもっとほかの手段も考えなくはなかったのですが。あなたにはこれまで日比野監督が何度かやり直すチャンスを与えたかと思いますが、結局こういう事態を招いたんです」
 抑揚のない言葉を連ねて、良太は事実のみを口にした。
「え………、あたし、次はちゃんとやる、やります!」
 二村はようやく自分の立場が不利になったことを悟ったらしい。
「あなたの役はもうオファーしました。これ以上撮影を遅らせるわけにはいきませんから」
 良太はもう二村を見ようともせず、支配人に騒がせたことについて、改めてお詫びをすると伝え、あらためて集まった面々に頭を下げると部屋を出た。
 皆はぞろぞろと応接室を出て部屋に向かった。
 先に来たエレベータにあらかた乗ったが、きつそうだったので良太と檜山は次を待った。
「いざとなると良太、容赦ないな」
 不意に檜山が言った。
「青山プロの、工藤の重要なプロジェクトを邪魔するとか、冗談じゃない」
 檜山にはつい本音をもらしてしまう。
 工藤のお株を奪うとか絶対ゴメンだけど、この際鬼にでもなるさ。
 工藤の邪魔をしようなんて千年早いんだよっ!
 例え訴訟を避けて和解になったとしても、おそらくドリームエージェンシーがよほどの馬鹿ではない限り、二村はもう業界に留まることはできないだろう。
 何せこちらには動かぬ証拠がある。
「なるほど、だよな」
 檜山は真面目な顔で頷いた。
「でも代役オファーしたって?」
「ああ、二、三人、当たってみてるけど、急だからどうだろう。明日は斎藤さんとこに行ってこないと」
 東京トンボ返りだな。
「斎藤さん、何て? スポンサー大丈夫なのか?」
「いやもともと、斎藤さん、ずっとこのシリーズのスポンサーだし、工藤を気に入ってるんで、問題はないと思うけど、一応筋は通さないと」
「二村の事務所は?」
「顧問弁護士に頼んだ」
「うーん、やっぱ良太、隙が無いわ」
「いやこれが仕事だし。匠のお陰だ、ありがとう」
 良太は檜山に頭を下げた。
「どうも二村、牧をターゲットにしている気がしたから、注意して見てたんだが、それにしても幼稚な作戦だよな」
「ほんと、呆れるよ」
 しかし匠が助けてくれるなんて。
 これじゃ、逆じゃんね。
 匠のこと研二さんに頼まれたの、俺なのに。
「ってより、監督とかほんと困ってたし、俳優さんたちのスケジュールだってあるんだから、主役級でもここまでの業務妨害はあり得ないって」
 大体工藤が俺に丸投げするからじゃん!
 ニューヨークで今日も怒鳴りまくっているだろう工藤の苦々し気な顔が目に浮かぶ。
 どうなっても、文句は言わせないからな。
 良太は一人拳を握った。

 


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