「しかし、小田弁護士から今回の事件の件で、スポンサーを降りた方がいいかも知れないと窺った時は驚きました」
良太は驚いた。
工藤はそんなことまで考えていたのだ。
他のスポンサーに対しても同じように対応したのだろうか。
「工藤さんを信頼してますから、そのような気遣いはご無用にと申し上げましたが、私は京助にレンジローバーを貸してもっと早く真犯人を突き止めろとせっつくくらいしかご協力できなくて逆に申し訳ありませんでした」
「とんでもない。お心遣いありがとうございました」
え、あのレンジローバー、京助のじゃなくて、紫紀さんのだったのか。
俺、コンビニに行くのに使っちゃったぞ。
良太はカッコいい車だからと運転してみたくて、谷川さんの乗ってきた社用車ではなく、レンジローバーのキーを京助に借りたことを思い出した。
「他のスポンサーにも、小田さん経由で紫紀さんと同じように伝えたんですか?」
東洋商事を出て青山プロダクションに向かう車の中で、良太は工藤に尋ねた。
「鴻池さんとか」
「鴻池? あの人にそんなことを言ってみろ。警察官僚に圧力をかけるか、でなければ真犯人を探すどころか、三文ドラマよろしく適当な人間を真犯人に仕立て上げて、警察に二重の冤罪を負わせるくらいが関の山だ」
「はあ」
まあ、確かにあり得ないことではない。
工藤も鴻池という人間についてはよくわかっているのだ。
「お帰りなさい、社長」
オフィスでは鈴木さんと平造が静かに工藤を出迎えた。
「心配かけて申し訳ない」
工藤は二人に真面目な顔で言った。
鈴木さんはもう涙目になり、お茶を入れますね、とそそくさとキッチンに向かった。
それから工藤と良太は、工藤がいなかった間の状況報告と、仕事の確認、それとこれからの仕事のスケジュールのすり合わせに没頭した。
やがてアスカを伴って秋山がやってくると、秋山がいつも通りの顔で打ち合わせに入り、アスカはお気に入りのパティシェリで買ってきたケーキをみんなに配りながら、ちょっとだけ目がウルウルしているのに良太は気が付いたが、何も言わなかった。
「あ、やっと娑婆に出てきたんだ、おかえりー社長」
賑やかに登場した小笠原はそれでも工藤が出てきたと聞いて、次の撮影に向かう途中でオフィスに寄ったらしい。
のんびりケーキにかぶりついている小笠原を、真中が「もう時間ありませんて」とせかしてオフィスを出て行った。
いつものごとくあちこちから電話が入り、あちこちに電話を入れて、アポイントを取り直したりしているうちに、時間が来て鈴木さんは帰っていった。
「社長、上の部屋に食事を用意しましたんで、二人で食べてください。わしはこれで軽井沢に戻ります」
入れ替わりに入ってきた平造がそう言ってまたオフィスを出て行こうとした。
「え、これから帰るんですか? もう暗くなるし、今夜は泊って行けばいいじゃないですか」
慌てて良太が引き留めた。
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