「俺はどうなろうとかまうものか。それを認めたら俺は自分の嫌悪するヤクザと変わらないことになる」
Tはどう片をつけたかは言わないが、それに対して工藤がそう言ったことがある。
「あなた自身ではなくあなたの大切な者に災いが降りかかるとしても、そんなことを言っていられますか?」
Tのその言葉に、工藤は口を噤むしかなかった。
確かに、良太は一本気な正義感から、工藤に何かあったとしたら突っ走るだろう。
それは今までにも重々経験済みだ。
工藤は現場を携帯の動画に収め、それを千雪に送り付けた。
「薬を盛られた、俺に濡れ衣を着せようという輩がいる。小田に連絡を取ってくれ」
かろうじて警察が駆け付ける前に、動画も千雪に連絡を取った履歴も削除した。
タレコミがあったらしく、警察がやってくるまでに時間はかからなかった。
秋山が麻布警察署に駆け付けると、入り口付近で良太がウロウロしていた。
「良太、工藤さんは?」
「会わせてもらえませんでした。でも小田さんが今接見しています」
秋山と良太はそれから小田が出てくるまでじっと待っていた。
やがて小田が出てきて言った。
「とりあえず、オフィスに行こう」
良太は帰る際、一度振り返り、悔し気に唇を噛んだ。
だが、ここで落ち着かなければ、何も進まないと良太は自分に言い聞かせ、三人はそれぞれの車で青山プロダクションへと向かった。
会社の前で三人を待っていたのは小林千雪だった。
「すみません、今、開けます」
良太はオフィスの鍵を開けて三人を招き入れた。
深夜のオフィスで、秋山、小田、千雪はしばらく言葉もなくソファに座っていた。
良太がコーヒーを入れて戻ってくると、秋山が言った。
「今はまだ俺と良太、それにアスカさん以外に社内の者にも何も言っていません」
「あ、一応軽井沢の平造さんには伝えるように工藤さんに言われたんで、伝えました」
千雪が言った。
「けど何で千雪さんに?」
良太は聞かないではいられなかった。
秋山も良太や秋山でなくなぜ千雪に連絡したのかということは疑問だった。
「おそらく時間がないと思ったんやないですか? こういう事件に慣れていることと小田さんともつながりがあるいうことで」
確かに、千雪の説明は一理あり、一応は二人とも納得した。
「いきなり現場の動画と『薬を盛られた、俺に濡れ衣を着せようという輩がいる。小田に連絡を取ってくれ』いうメッセージが届いたんで慌てて電話したんです」
三人は千雪をじっと見つめた。
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