客室へのエレベーターを上がり、トモがカードキーで部屋のドアを開けると想像を覆さないスイートルームだった。
このヤロウ、財布の中のカードの名前を確かめてやろうか。
佐々木はそんなことを思ってみるが、人様の財布を手に取るようなことは、よほどじゃないとできそうにない。
「そうですね、カードを見れば、俺の名前もわかると思いますけど」
心を読まれたかと思うほど、ぎょっとして佐々木はトモを見つめた。
「あなたはそんな下品なことをする人ではないし」
「わかれへんでしょ。俺のことなんかそう知らんくせに」
開き直る佐々木に、トモは笑いながら眼鏡を外してポケットに仕舞い、上着を脱いで引き抜いたネクタイと一緒にクローゼットにかけると、バスルームに消えた。
なんで俺、ここにいるんや?
とりあえずソファに腰を降ろし、ふうと大きく息をついた佐々木は、現状を把握することさえ躊躇っていた。
食事にドライブにホテルって、これはやはり、いわゆるデートコースってやつやな。
しかも夕べと違って酒も飲んでない。
決して無理やり連れてこられたわけでもない。
つまり、俺は、わかってて自らついてきた、ことになるのか?
バスルームのドアが開くと、佐々木ははっと我にかえる。
「お風呂どうぞ。ここの入浴剤アロマ入ってるから疲れ取れますよ」
バスローブ姿で現れたトモだが、さりげない言い回しは警戒感を持たせない。
って、俺は女やないし!
「ほな、遠慮なく」
ええ加減、肝をすえろって!
バスルームに飛び込んだ佐々木は、またひとつため息をつく。
「第一、そういう目的やとは限らんやろ? 男同士なんやし。ゆっくり酒を飲みたいってだけかも………」
言葉にしてみると何やら空し過ぎて、自分でがっかりする。
昨夜のことはじゃあどう説明するんだと。
ましてやトモがゲイなら目的は決まっている。
ただし入浴剤は本当にリラックスさせてくれたようだ。
湯に浸かったままどうやらうとうとしていた佐々木は、ドアがノックされる音にはっと気がついた。
「携帯が鳴ってるんですが、どうします?」
ドアの向こうでトモが声を張り上げている。
慌てて湯から上がると、佐々木はドアの傍まで行って「放っておいて下さい、あとでかけるんで」と告げた。
「了解」
ドアの向こうから返事が聞こえた。
ルームサービスでトモが頼んだのは、ブブクリコに赤ワイン、それに焼酎だ。
野菜スティックとソースの他に、イカの塩辛にきゅうりの明太和えなどと妙に庶民的なものが並んでいる。
リビングのテーブルに皿やグラスを並べ、「とりあえずシャンパンからいきますか」とトモはブブクリコのコルクを軽くポンと開け、佐々木のグラスに注ぐ。
二人ともバスローブ姿、どちらからともなくグラスを合わせ、という状況をいちいち考えたくないので、佐々木は思い切りよくグラスを空ける。
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