恋ってウソだろ?!21

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 その時、ふっと同じような情景が断片的に佐々木の脳裏に舞い戻った。
 あれ、確か夕べも、赤ワイン赤ワインって俺、騒いでたような……
 髪まで濡れてしまったので、シャンプーしてざっとドライヤーをかけたのだが、生乾きなのが気になって、佐々木は落ちてくる髪をうるさそうにかき揚げる。
「ほんとに………」
「え……?」
「無意識に挑発してくれますよね」
 トモがじっと佐々木を見据えている。
「は……?」
 目が合って、佐々木は思わず身を堅くする。
 その時、ソファに放ってあった佐々木のバッグの中で携帯が鳴った。
「はい、佐々木」
 やばい方向へ向かう寸前で助かったと、慌てて携帯にを持って窓辺へと移動する。
「あ、お疲れ。ああ、十時やね、ええよ」
 浩輔の声が妙に懐かしく聞こえた。
 明後日の大和屋の件でアポが取れたという。
「お昼は久しぶりに加斗屋とか行こうか。その足で良太ちゃんとこ? 午後一やね、わかった」
 携帯が切れると、思いがけずわけのわからない寂寥感に襲われる。
 何やね……一体。
 俺、やっぱ、昨日からおかしいで。
 独立して初めての仕事は出だしも順調過ぎるくらいだ。
 見た目はジャスト・エージェンシーにいた頃と何ら変わらないのだが、浩輔は精神的にも落ち着いて、仕事の面でも成長が見て取れる。
 まるでその分、佐々木の中では何やら不安要素が増えたような気がする。
 佐々木がソファに戻ると、トモは焼酎を開けてストレートで飲んでいた。
「焼酎、好きなんですか?」
「ええ、割と日本酒か焼酎。日本中のいろいろ、飲み比べたりするんです。飲みます?」
「ください」
 案外庶民的なところもあるんだ、などと思いながら飲んだ焼酎は美味しかった。
「どうです?」
「美味いな。俺も仕事仲間と飲むときは焼酎が多いかな。でもとにかく量飲むだけで、美味いも何もわかれへんうちに酔うとるし」
「よかった。気に入ってもらえて」
 じっと自分に注がれる視線が熱い。
 だがそれをあえて無視し、佐々木は独立する前の会社社長の春日のことや、会社に入ったいきさつなどを話しながら、トモのグラスが空になると、焼酎を注いで、ついでに自分のグラスも満たす。
 トモも佐々木の話に笑い、いろいろ仕事のことを聞いてくる。
 広告関係の仕事のことや、あたりさわりのないことを説明すると、トモは真剣そうな目を向けた。
 見ず知らずだから話せるということもあるかもしれない。
 ついでに、トモが焼酎で潰れてくれればいいのに、などとちらりと佐々木は考えた。
 何度目かボトルを傾けようとしたその腕を、トモが掴む。
「佐々木さん」
「え…?」
「俺、焼酎なら一升や二升でも潰れないから」
 じっと自分を見据えるトモの目の鋭さに、佐々木ははっと息をのんだ。
 佐々木の手からボトルを取り上げてテーブルに置くと、トモは佐々木の手首を掴んだまま、ベッドルームに連れて行く。
「おい、待て……」
 力の差は歴然だが、佐々木の中で逃げなくてはという意思と怖いもの見たさのような誘惑とが葛藤し、ゆっくりとベッドに押し付けられて、瞳を覗き込むトモの視線に縫い付けられたように身体が動かなかった。

 


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