思い当たるというか、もうずっと頭から離れないというのが正しいのだが、トモのこと以外では考えられない。
「週末、箱根に行きませんか?」
昨日の朝、東京に戻る車の中でトモが言った。
「今度はホテルじゃなくて山荘ですから、あまり人の目も気にしなくて済みますよ?」
そりゃ、男とホテルに泊まるなんて気にしなくてどうする、とでも突っ込みたかったが、トモの言葉は優しいので突っ込みどころを失った。
「箱根なら、テニスできますよ」
湘南バイパスに車を走らせながら、トモが言った。
「しばらくやってないから楽しみかも」
朝陽に煌めいている海岸線は穏やかな秋の色をしていた。
「シーズンオフだったから、静かでいいと思ったんですけどね、大磯も」
「いや、朝、起きたら目の前が全面海で、きれいやったし」
「だったらよかった。そうだ、この先に海が近いカフェがあるんですよ」
その横顔には包み込むような笑顔があった。
「佐々木さんの仕事があるから今日は残念だけど、そっちもぜひ行きましょう」
お互い癒されるのなら、いいじゃないですか。ゲームだと思えば。
そう、トモは言った。
あなたが嫌になるまでは、会いましょうよ、またこうやって。
トモの言葉が耳についている。
嫌になるどころか、もうずっと、身体中、頭の奥までトモに支配されている。
怖いくらいに。
トモのことを考えると、またぞろ身体の芯に熱がともりそうになる。
あり得ないって、こんな………溺れる…って、これか。
あり得ないけど……
「佐々木さんってば」
はっと気づくと浩輔が見つめている。
「あ、悪い、何?」
「大丈夫ですか? スケジュールの確認ですけど」
「ああ、大丈夫。えっと、これで、OK」
そう、浩輔のことさえ忘れるくらいに。
こんな、自分をコントロールできないなんていう状況を、佐々木は知らなかった。
ただ、気になるのは藤堂の言葉だ。
何だか見透かされているようで、いやだ。
それにしてもトモ、あの男、仕事してるんやろか。
すぐまた、トモへと思考が飛んでしまう。
何をしているのかも、名前すら知らないのに。
でも、それでいいのかもしれない。
これはTricky Night、ハロウィンの夜の続きなのだ。
そういえば、俺、何を忘れてきたか聞くの忘れてしもた。
佐々木には抗いようのない波にのまれようとしている自分の姿が見えていた。
その先に何が待ち受けているのかもわからない。
怖いけれど、溺れてしまいたい自分を佐々木は今、どうすることもできなかった。
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