恋ってウソだろ?!34

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 彼女が本来の自分に戻り、そして飛躍を遂げたということは、少なくとも彼女にとっては佐々木と別れたことが吉と出たのだろう。
 今となっては、彼女と過ごした時は佐々木にとって切ないけれども既に過去の日々だ。
 浩輔と出会ったことでそう思えるようになった。
 そして今、そうした昔のことを穏やかに眺めていられるのは、トモの存在が大きいと認めざるを得ない。
 仕事中であれ何であれ、トモの顔が自然に頭に浮かんでしまうのだから。
「週末はしばらくここにしましょうか。佐々木さん、結構気に入ってくれたし。でも、雪が降ったら、信州がいいな。俺も久しぶりにスキーやりたいから」
 箱根であたりまえのようにトモは言った。
 佐々木が否と言うはずがないと思っているようだ。
 事実、佐々木が滅多に飲まない薬を飲んだりしたのは、風邪なんか引いて週末をダメにしたくないと心の奥で思っているからだ。
 身体だけでなく思考まで操られているな………
「そういえば、高橋が『街』を気に入って買いたいって言ってるんだが」
 藤堂が思い出したように悠に言った。
 藤堂の言う『街』は二〇〇号の連作だが、悠はしかし途端面白くなさそうな顔をした。
「高橋って、こないだのマッチョヤローだろ? 黒いカード持ってたヤツ」
 作品に見入っていた佐々木には気になるキーワードだった。
「すごいな、もういくつか売れてるんや?」
 佐々木は悠を振り返った。
「去年の展覧会で、学生のうちからもうファンができてるんですよ、彼」
 浩輔が自慢げに教えてくれる。
「黒いカードって? 資産家のお客さんがいてるん?」
 ついそんな言葉が佐々木の口をついて出る。
「高橋さんて、河崎さんや藤堂さんの中学高校の後輩の方で、先日、フラリとやってきて、小品を買っていかれたんだけど、ブラックカード出すもんだから、悠ちゃん、イラついちゃって」
「何で? お金持ちが嫌いなん?」
 悠は口を尖らせてむくれた顔を隠さない。
「それが、前に藤堂さんと一緒にケーキを買おうとしてゴールドカードを出したらしくて、ケーキなんかにそんなぴかぴかしたカードなんか使うなって怒って」
 浩輔は笑いながら続ける。
「藤堂さんのことだから、ピカピカしてなきゃいいだろうってなもんで、ブラックカードに変えて、これならいいだろうって、悠ちゃんも一時は納得してたんですけど、受付の啓子さんに、ブラックカードはゴールドカードよりも上だって教えられて、悠ちゃん、藤堂さんがだましたって、しばらく口聞かなかったりで」
「まあ、カードのことなんか知らんかて、絵を描くのに関係あれへんよな」
「佐々木さんも好きなこと以外興味ないですもんね。ってか、この業界にいるくせに、芸能人とかもあんまり知らないでしょ? 気になる人しか覚えないんだもんな。テレビあんまり見ないし」
 佐々木はちょっと怪訝な顔をする。
「心外やな、俺が世間知らずやて言いたいわけ? モーニング何たらとかAKBなんたらは知らないが、吉永百合やブルース・ウイルスは知ってるで。古谷さんも」
「吉永百合って、佐々木さん、いつの時代の人ですか。古谷さんとか仕事関係だったからでしょ?」
 浩輔はやはり、と半分呆れた顔をする。

 


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