恋ってウソだろ?!71

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 馴染みの居酒屋の暖簾をくぐると、カウンターもテーブルも、一年の労を労い合う会社員の赤い顔で満杯だった。
 二階から聞こえてくる賑やかさは一段とテンションが高そうで、佐々木は一瞬上に上がるのを躊躇したほどだ。
 ジャスト・エージェンシーの忘年会は毎年、この店の二階と決まっている。
 直子を先に向かわせて、仕事を上げてしまおうと思っていたのだが、七時半を過ぎてもなかなか終わらないので、仕方なく切り上げてやってきたのだ。
「おおおおお! 天照大神様! 天岩戸が開いた~ はあああああ~」
 襖を開けるなり、既にできあがっている連中がやんややんやと佐々木を出迎えた。
「誰が天照や!」
 足元にひれ伏す若手のデザイナー藤井の頭に軽く拳をくれてやり、「やっときたか」と手招きする春日の横へ座る。
「ようし、綺麗どころが揃ったところで、もう一回、乾杯といくぞ!」
 春日の音頭で、おおおおおと、雄たけびのようにみんなそれぞれ、グラスを合わせる。
「やっぱり、佐々木さんがいないとなーんかパッとしないんだよね~!」
 我も我もと佐々木の前にビールやお銚子を持って入れ替わり立ち代わりやってくる。
「最近、どうや?」
 酒を注ぎにやってきた美紀に尋ねてみた。
「ちょっと悩みまくり、あいつら人の言うこと聞かないし!」
 ひとしきり愚痴ったあと、でも、と美紀が溜息混じりに笑う。
「佐々木さんの顔を浮かべながらやってるから、何とか……」
「そうか」
 何ら変わりがないようで、その実、既にみんながそれぞれのポジションで走り出しているのだ。
 美紀にせよ、稲葉にせよ、新しいフィールドができつつある。
 もう俺の戻る場所はあれへん。
 俺も、ぐたぐたしてはいられへんな。
 友香も浩輔も、ちゃんと離してやれた。
 友香は着実にステップアップしてるみたいやし、浩輔もしかり。
 トモ、もう俺のことはええから、彼女とうまくやれや。
 世間の荒波に一人で放り出されたもんやから、情緒不安定やったところへ、今回、うっかり深みにはまり過ぎたんや。
 若いもんを温かく見守ってやるんが、大人いうもんやし。
「佐々木さん、飲みが足りない~!」
 何やら悟りの境地でぼんやりしていた佐々木のところへ、営業の大沢が焼酎の瓶を持ってやってきた。
「いや、ほんま、ここんとこおかあちゃんの付き合いでちょっと疲れとるし、まだ年内仕事残ってるよって……」
「えええ? らしくないでぇ」
「ほな、半分でええ、半分」
 座敷の熱気をよそに、関東地方は冬型の気圧配置がぐんと強まり、夜半から振り出した雨はまた雪になった。 


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