恋ってウソだろ?!70

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 コンコンと窓を叩く音に腕組みをして目を閉じていた沢村は顔をあげた。
 パワーウインドウを下げるとすぐ、冷たい外気が車内に流れ込む。
「申し訳ないんだが、会社の前にこんなでかい車を停められてると困るんで、どこかに移動してくれないかな」
 藤堂が窓から覗き込んだ。
「それに、気の毒だがいくらここで待っていても、佐々木さんは戻ってこないよ。多分地下鉄で帰ったんじゃないかな」
 その言葉を聞くなり、沢村はカッとなって思わず掌でハンドルを叩く。
 そんなに俺と言葉を交わすのも嫌だってのか?!
 いや、あんなことを書かれたら当たり前か。
 雑誌とかテレビとか勝手にあることないことでっちあげやがって……!
「どういうつもりで佐々木さんをストーキングしているのかなーんてことは聞かないけど、沢村智弘が往来でいきなり人を拘束しようなんてのは、ちょっとね」
 ニヤリと笑う藤堂を沢村は睨みつける。
「佐々木さんは、日本を代表するアスリートがそんなアホなマネするわけないじゃないですか、って言ってたけど」
 沢村は拳を握り締めながら、腕を掴んで振り向かせた時の佐々木の苦しそうな顔を思い出した。
「俺は! ……俺はあの人にあんな顔をさせようと思ったわけじゃない! 俺はただ……!」
 あの人が好きなだけだ………
 周りが見えなくなり、何を言い出すかわからなくなっている沢村を、藤堂はやれやれと呆れて見つめていたが、徐に口を開いた。
「今の佐々木さん、あれは直球じゃあ、難しいよ? 三冠王のゴシップだし、せっかくマスコミも大々的に報じてくれてるんだから、そっちはしばらく騒がせておけばいいんじゃないかな?」
「あんなのはでっち上げだ!」
 沢村は激昂する。
「ほらほら、そうやって牙を剥いて噛みつこうとするからいけない。とにかく、佐々木さんは大事な友人だからね。どんな人間であれ、彼を傷つけるようなマネはさせたくない」
 沢村は、藤堂の言葉にガツンとやられた思いがした。
 立ち去ると思った藤堂がひょいとまた顔を覗かせる。
「先月とか、ひどく幸せそうに見えたんだけどね、佐々木さん」
 そう言い残すと、藤堂はオフィスへと足を向けた。
 亡羊とした頭のまま、沢村はエンジンをかける。
 沢村の焦りにはおかまいなく、時間ばかりが過ぎていく。
 結局、俺って、まとわりついてあの人を苦しめるだけのただのストーカーってことか。
 ひとつ息をついた沢村は、力なくアクセルを踏んだ。

 


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