歩いていないと足元から崩れそうな気がした。
自己喪失、自己崩壊、そんな感じだった。
とにかく、この場から立ち去らなければ思考がバラバラになっていく。
仕事は、そう、浩輔がいる。
おそらく自分がいなくても浩輔は大丈夫だろう。
頭の片隅でそんな考えが一瞬かすめた。
地下でエレベーターを降りた佐々木は、駐車場に向かって何かに追い立てられるように歩いていた。
車に乗り込もうとした時、後ろから猛烈な勢いで走ってくる足音がした。
振り返ると、いきなりその腕を掴まれ、強い力で引っ張られる。
沢村だとわかって、佐々木は息を呑んだ。
「……ちょ……お前! 離せ…よ!」
だが、沢村は無言で感情の整理がつかない佐々木の腕を掴んだまま、自分の車まで連れて行くと、ロックを外し、佐々木を助手席に突き飛ばしてドアを閉めると同時にリモートキーでまたロックした。
沢村が運転席のドアを開けた途端、佐々木は車から降りようとしたが、また力任せに引き戻される。
沢村の車は駐車場を滑るように走り出て、スタジオを後にした。
「どういうつもりや?! 何考えてんのや!」
「さあ、……………ストーカーがやることだし?」
開き直ったように言うと、沢村は不敵な笑みを浮かべた。
「ええ加減にせいや! わかった、話なら何ぼでも聞いたるし………車停めろ!」
「……いやだね。やっと捕まえたのに」
低く唸るように言葉を返すと、沢村はきつい表情で前方を見据えながらアクセルを踏んだ。
こいつ、今何言うてもあかんわ……聞く耳持たんて感じや……
お陰で少しばかり我に返った佐々木は、衝動的にスタジオを飛び出したことをようやく後悔していた。
面と向かったら、俺があかんよになりそうで……せやから、避けとったのに……ええ年して、みっともないことはしとうないよって、せいぜい平静取り繕おう思うてたのに……このガキが、人の気も知らんと………
しかし連絡を取ろうにも、ポケットを探ってみたが携帯はない。
ジャケットと一緒にスタジオに置いてきてしまったのだ。
佐々木は大きく溜息をつき、仕方なく窓の外へ顔を向ける。
気が付くと車は首都高から東名に入っていた。
滅茶苦茶飛ばしている。
今、ここで下手に騒いで事故でも起こしたら、それこそとんでもないことになる。
緊張が佐々木の身体を縛りつけていた。
箱根への道を取り囲む景色は、前に来た時の鮮やかな秋から色を落とし、山々は冬の装いへと様変わりしていた。
久々に見た別荘は大きさばかりが際立って、ひどく寒々しかった。
車を降りた沢村は、佐々木の腕を掴んだまま、玄関のドアを開けた。
「……痛い…て!!」
ジャケットなしでも温かかった車内から出ると、さすがにこの辺りの空気の冷たさに佐々木は身体を震わせた。
先に佐々木を玄関の中に押し込むと、沢村はドアに鍵をかけ、やっと腕を離してエアコンを入れ、窓のローマンシェードを上げる。
いつも花や色とりどりの枝が生けられていた壷が、今日は寂しげに冷たい地肌を見せ、屋内では一層冷え切った空気が動きをとめていた。
促されてリビングのソファに座った佐々木がふと窓一面の庭に目をやると、葉を落とした樹々の群れがつんつんと一斉に裸の枝をさらしている。
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