「そう……ですね、一寸の虫にも五分の魂、って言いますもんね」
勝浩は言った。
「またまた、悟りきった仙人みたいな例え」
「祖父がよく言ってたんです」
幸也の微笑みが妙に優しく見える。
「まあ、ミクロはミクロなりに、近場から開発を進めていくのさ。さしあたってまず月だな」
「え、月? ってあの月?」
勝浩は聞き返した。
「そう。俺は独自に月をベースにした交流の場を創るプロジェクトも計画している。地球からすると月は離れ小島みたいなもんだろ?」
忘れていたが、この人はそんな最先端のプロジェクトにいるような、卓越した存在なのだ。
「はは、いいな、それ」
この人ならいずれ現実にしてしまいそうだ。
そして今度こそもう自分の手の届かないところへ行くのだろう。
「……勝浩さぁ……」
しばしの沈黙の後、幸也が口を開く。
らしくもない遠慮がちな口調に、勝浩は幸也を見上げた。
「あの子、美利ちゃんとつきあってんの?」
唐突な質問に、勝浩は言葉が出てこない。
「……俺が、……誰とつきあってたって、長谷川さんには関係ないでしょ」
ようやく勝浩は言葉を絞り出す。
「あ、いや、ほら、可愛い子だしさ、よく一緒にいたから、そうなのかな……って」
「……実は、前からアタックしてるんですけど、もうちょっとってとこなんです。ほら、俺って、長谷川さんみたいに女の子の扱い、うまくないし」
心が痛くて、勝浩は口からでまかせを並べ立てた。
そうでもしないと、やってられない。
「じゃあ、もう一度、美利ちゃんにぶつかってみるかな」
「あ、そう……、がんばれよ……」
幸也のそんなセリフを背中に聞いた後、勝浩は口にした手前、美利や垪和のところにいって、残っていたワインをもらうことになった。
「大丈夫? 勝浩くん」
あまり酒に強くないとわかったからか、美利がまた気遣ってくれる。
「ん、何か飲みたい気分なんだ」
飲み干した赤いワインはただ渋いだけで、少しも美味しいとは思えなかったけれど。
勝浩と入れ違いにベランダに出て行った検見崎は、手すりにもたれたまま座り込んでいる幸也を見つけた。
「何してんだよ、お前」
呆れた顔で検見崎は幸也を見おろした。
「あああ…………」
幸也は大仰なため息を吐いた。
「おい、どうしたんだ? この世の終わりみたいな顔して」
「……終わりだな……もう」
「おい、幸也、どうしたんだよ」
さすがにあまり見たことのない幸也の体たらくに検見崎は首を傾げて、その横に座り込んだ。
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