日比野にも、また小杉や志村にも何かあったら連絡を入れてくれるようには言ってあるが、撮影は順調に進んでいるし、良太はまず目の前にある仕事に向かった。
「お帰りなさい、良太ちゃん」
オフィスでは鈴木さんの笑顔に出迎えられ、良太は「ただいま帰りました」と、土産に買った京都では名の知れた宇治茶の店の茶葉とカステラの入った袋を渡した。
「いつもありがとう。お茶、早速いただきましょうか?」
パワスポの打ち合わせの前に、いくつか作成しなくてはならない書類があった。
テレビでもネットでも水波清太郎逮捕の話題があちこちで取りざたされているが、水波は覚せい剤所持と使用を認めたというが、関わったCMや映画ドラマなど損害賠償額が半端じゃないらしい。
とにかく、撮り直しのための書類が必要となる。
「ってより、また撮り直しとか、関わっていたスポンサーにしろ俳優陣にしろスタッフにしろ、その労力を考えろってんだ!」
パソコンでネット記事を読んだ良太が、思わず知らず怒りを口にする。
「アスカさんもげんなりだって話してたわ」
良太の怒りを聞きつけて鈴木さんもボソリと言った。
「ほんと、アスカさんもろいい迷惑ですよね。ドラマも収録終わってたっていうのに。それにCMもですからね。佐々木さんもここのところ忙しさマックスだっていうのに、あり得ないって言ってました」
佐々木さんとも早いとこ打ち合わせをしなくては。
確か藤堂さんと東洋不動産の仕事がえらく滞っているとか言っていたが。
せっかく関西タイガース対福岡ホークスが日本シリーズで激突するんだから、佐々木さんにチケット渡そうと思ってたのにな。
佐々木は沢村の邪魔になりたくないと考えてまだ一度も試合を見に行ったことがないらしい。
少しくらいお節介やいてもなんて考えていたのだが、ササキオフィスの直子情報だと、佐々木は忙しすぎて身体を壊しかねない状況だという。
しかも東洋不動産の仕事で近々ニューヨークに飛ぶ予定があるらしい。
「これはちょっと無理かな」
良太自身もできれば久々生の試合を見てみたいとは思うものの、水波のお陰で余計な仕事がわんさか増えて、それどころではなさそうだ。
「大いなる旅人、京都の撮影はこれで終わりなの?」
鈴木さんが聞いてきた。
「いえ、ニューヨークのロケは今月末までに終了予定ですけど、まだ京都でのロケ残ってて。でも志村さん、CMの撮影でドイツにまた行くことになってますし、檜山さんが十一月から舞台の予定があったりで、年末年始まで忙しいようですし、京都での撮影は年が明けてしばらくしてからになりますね」
「そう。ドラマも大変だけど、映画となるとスケール的にも違いますもんね」
「そうですね。それだけ経費がかかりますし」
しかし、水波の周りで芋づる式に逮捕されそうな芸能人がいるとか何とか騒がれているが、「大いなる旅人」の俳優陣やクルーには関わっている人間がいないことを祈るばかりだ。
ただでさえ二村には振り回されたのだ。
お陰で経費からスケジュールから狂わされっぱなしだ。
ドリームエージェンシーと交渉した小田弁護士によると、向こうは終始殊勝な態度で、金はいくらでも出すので表ざたにはしないでほしいと社長自ら頭を下げてきたらしい。
良太は、でも二村にとってそれでいいのかなとは思うのだ。
檜山ではないがもしかするとまた別のところで何かをしでかさないとも限らない。
それだけのことをしたのだと、二村に何らかのペナルティを貸さないと、反省なり意識改革なりできないのではないか。
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