春の夢64

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    エピローグ
 
 
 傷は完治してはいないが、ロジァは数日後、ボックスに出てきた。
「ボスの味気ない命令がようやく聞けますか」
アレクセイは、開口一番、揶揄した。
 ロジァはアレクセイをチラッと見ただけで、何も答えずに自分のデスクについた。
 本当は、いつものごとく無表情を作ってボックスに足を踏み入れるはずだったが、いきなりアレクセイが立っていて、ロジァは始めから動揺を隠せなかった。
 慌ててデスクについたものの、皆に言うべき言葉がどこかにいってしまった。
「ちょっと怪我したので…長いこと仕事を休んで済みませんでした」
 ロジァはやっとそれだけ言った。
「大丈夫なんですか?」
「面倒なことは私たち、やりますから、何でも言ってください」
 ミレイユやマイケルらに口々に言われて、ロジァはふいに、彼らのそんな気遣いを素直に嬉しく思っている自分に気付いた。
 少しばかり頬を紅潮させたのを隠すのに必死になった。
 彼らは、ロジァが怪我をしたとだけしか聞かされていなかった。
 ケンはアレクセイが彼らに何も言わずに飛び出して行った後、気になって、ティムに確かめた。
するとティムは、何でもありません、とすっとぼけた。
 何でもないわけないだろうとは突っ込みたかったが、アレクセイとロジァが怪我をして運び込まれ、納得がいった。
 ロジァは『ブラック』の関係で、何か事件に巻き込まれたのだろうと、ケンは思った。
 それにしても、アレクセイが自分たちに何も言わなかったのは許せないが、ロジァのことですっ飛んで行ったことを考えると、炎の中に飛び込もうとしたロジァの心情と似通っているものがあるのかもしれないとも思う。
 基本的に面倒な案件がない限り、『コマンド』の就業時間は九時から五時、しかも十六歳やそこいらの少年をボスに据えていることだけでも他の部署からはだから『おまけ』部署『お荷物』部署と、上から目線で見られている。
 ただ、他のプロジェクトに参加しているアレクセイを始めマイケルにせよケンにせよミレイユにせよ、有能な科学者なのにと気の毒に思われていることも事実だ。
「でも定時に上がれるって最高!」
 夕方の五時なると、ミレイユが立ち上がった。
「今日はピアノ聴きに行くんだ。ショパンよ!」
「へえ、そんな高尚な趣味、あったんだ?」
 マイケルに揶揄されてミレイユは「言ってなさい」と鼻で笑い、じゃあね、とさっさと出て行った。
「ちぇ、俺はDプロジェクトで、ここんとこ夜昼なしって感じだ」
 


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