自分の部屋に戻ったものの、考え込んでしまった良太は結局ほとんど眠ることができず、翌朝そのまま仕事に入ることになってしまった。
午後には眠気が襲ってくるし、それでも車を動かさねばならず、良太は眠気覚ましのドリンクで気を張って過した。
オフィスに戻り、何とか仕事も終えた、と思った矢先、オフィスのドアが開いた。
夜の十時を過ぎているし、工藤が帰ってきたのかと思い、良太が顔を上げると、入ってきたのは何と黒川真帆だった。
「こんばんは」
真帆はにっこり笑う。
「こんばんは、あの……何か?」
予想外の出現に良太もどう対応していいかわからない。
「工藤さん、もうそろそろ帰ってくるでしょ? さっき撮影の時、言ってたもの。あなたと話してたのかな?」
確かにそれは自分だろう、帰る時間を聞いた気がする。
「あ、はあ……あの、打ち合わせか何かですか?」
そんな話は工藤から聞いていない。
真帆は窓辺の大テーブルに、下げていた紙袋を置くと、傍のソファに腰を降ろしてくつろいだ。
「まだ仕事は終わらないの? 良太」
あんたに良太と呼ばれる筋合いはないぞ、と良太は一人突っ込みを入れる。
「はあ、もう終わったので、工藤さんの帰りを待って引き上げようかと」
「いいわ、私が待ってるから。あなた、もう引き上げて」
「え? でも……」
そんなわけに行かない。
「ご飯持ってきたのよ、工藤さんに」
「はあ」
「もう、無粋なコね、二人きりにしてって言ってるの。案外鈍いわね、良太」
途端、かあっと体の中の血が逆流する。
この女………!
工藤は俺の………!
だが、良太には何も言うことができなかった。
そんな自分の立場の情けなさをあらためて思い知らされた気がする。
そこまで考えて、良太は思う。
工藤は俺の、何なんだよ。
俺は、工藤の……愛人、か? やっぱ。
いんや、愛人の、一人、か。
案外、この女のこと、工藤、気に入ってるのかも。
だから、ひょっとして二人示し合わせて、ここに………。
ズキズキズキズキと、急に胸が痛くなる。
何だ、そうか。外じゃ、またマスコミに騒がれるしな。
ここなら、打ち合わせってことで済むじゃん。
そういうこと、か。
マジになってるらしい、って小笠原も言ってたっけ。
こんなストレートに好意を寄せられたら、男がほだされないわけない、か。
女はいいよな、堂々と主張ができて。
あ、でも、俺が男だから、とか、それ以前の問題かも。
滅茶苦茶自分が情けなくて、けれどどうにもできない。
悔しくて悔しくて、良太は唇を噛む。
くそ、帰ろ。
「じゃあ、俺、帰りますけど、工藤は時間通りに帰るかどうかわからないし、俺、上に部屋があるんで、何かあったら、すぐ、呼んで下さい。電話は、俺の部屋で取りますから」
「わかったわよ、さっさと行って」
煩そうに言ってから、「あ、そだ、キッチン、どこ? お茶入れるから」と聞いてくる。
「キッチンはそっちのドアを開いたとこです。じゃ、くれぐれも気をつけてください」
「あ、そう」
後ろ髪を引かれる思いで、良太はオフィスを出た。
まだ、工藤は帰ってくるようすがない。
ちぇ、勝手にしろ、だ、もう。
ラブシーンでも何でもやるのがいいや。
ああ、くそ、沢村の話に乗ってやる!
もう、俺はアメリカ、行く!
ひょっとして、その方が工藤もせいせいするのかも。
やってらんねーぜ!
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