良太はふてくされて自分の部屋に戻ると、さっとシャワーを浴び、冷蔵庫からビールを出して一気に飲み干した。
「くそーーー! 酒が足りねー! 買ってくるか」
が、しかし。
もしオフィスで、二人がいちゃついていたりして、酒買いに行ったら、偶然にも見てしまう、なんてのは、もっとごめんな気がする。
「ちぇーーー、アホ工藤! いちゃつくんなら、俺のいないとこでやれ! バッキャロー!」
喚いている良太に、ナータンがどうしたの? というように、にゃー、と鳴く。
「ナータン、お前、アメリカ、行くか? あ、でも、どうなんだろ、ネコの世界にもやっぱ言葉の壁ってあるのかな」
なあ、とナータンの頭を撫でる。
「でも、俺のナータンだからな、そんなのへっちゃらだよな?」
ナータンはそうだ、と言わんばかりに、また、ナア、と鳴いた。
しばらく、ベッドに仰向けになって眠っていた良太だが、廊下の向こうでドアが開く音がするのに気づいて目を覚ました。
工藤がようやく会社の前でタクシーを降りた時はもう十一時を回っていた。
ドラマの撮影が始動するのと前後して、二年がかりで撮ったドキュメンタリー、『オーロラをさまよう』の放映日も近づいているため、ここのところ編集や打ち合わせに工藤は睡眠時間もろくに取れないほどだ。
忙しいスケジュールを調整して挑んだ厳寒の地フィンランドに、想像以上に厳しい自然を見せつけられた志村だが、へこたれずについに最後まで撮りきった。
志村はひとまわりもふたまわりも成長した感があり、だからこそ、このドキュメンタリーを成功させたい、という想いが工藤にも、また、志村のためにフィンランドの冬を駆け回った下柳にもいつも以上に強い。
見上げると、オフィスの灯りがついている。
良太がまだいるらしい。
しばらくろくに話もしていないが、オフィスに待っている良太の顔を見るだけで、何だかほっとする、なんてのは年を取った証拠か。
「編集には良太も立ち合わせるか」
風連湖の白鳥の撮影では、良太がえらく感動していた。
フィンランドへもできれば良太を連れて行ってやりたかったが、如何せん、良太にはやってもらわなければならない仕事が山ほどある。
アスカに言われずとも、良太の存在は会社になくてはならないものになっている。
いや、会社だけじゃないか。
工藤は笑い、オフィスのドアを開ける。
「お帰りなさい!」
迎えてくれるのは良太のはずだった。
が、そこには真帆だけで、良太の姿が見えない。
「何やってるんだ、お前。良太は?」
途端に眉を顰めた工藤は辺りをみまわした。
「良太なら、帰りましたよ、さっき。あ、お弁当、持ってきたんです。今頃までお仕事なんて、お腹空いてると思って」
にこやかに真帆は言い、紙袋から弁当を取り出す。
「これ、知り合いの料亭で作ってもらったんです。工藤さん和食がお好きだって聞いたから。あ、今、お茶いれますね」
苦々しい顔で突っ立っている工藤に、真帆はちょっと気圧されながらも、キッチンに向う。
「ありがたいが、今はいい」
きっぱりと言い切ると、工藤はやおら携帯を取り出し、電話をかけ始める。
「石倉か、さっさと真帆を連れにこい! どこだ、だぁ? 自分のタレントの行動も把握していないのか、きさま! 乃木坂のオフィスだ。五分でこい!」
携帯を叩きつけたいほど、超不機嫌だ。
「ちょ、工藤さん、石倉には関係ないのに」
携帯が切れる前に真帆は慌てて訴える。
「きさま、またくだらないネタをマスコミに提供して、ドラマを台無しにしたいのか?」
極力抑えた言葉で、工藤は真帆を睨みつけた。
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