「そんな、つもり……」
「とっとと帰れ。俺は忙しいんだ」
言い淀む真帆を遮って工藤は声を荒げた。
「だって、あたし、工藤さんがちゃんと食事もしてないから、心配だったし」
「弁当はありがたく頂いておくが、自分のことは自分で管理する」
煙草をくわえながら、正直、真帆がどうのというより、工藤はまたつまらない邪推をしているだろう良太のことを考えると、頭が痛くなる。
「お前は演技のことだけ考えていろ! いいか、このドラマを生かすも殺すも、お前のヘタな台詞一つにかかっているんだ。浮かれた芝居しようもんならすぐに降ろす。わかったか」
冷ややかな言葉を投げつけられ、真帆は唇を噛む。
「わかりました……」
「わかったら、さっさと支度しろ」
真帆は今にも泣きそうに顔をゆがめながら、コートを羽織る。
やがてあたふたとやってきた真帆のマネージャーの石倉は、すみません、すみませんとひたすら工藤に頭を下げる。
「ほんとに、すみません、さっき部屋に送っていったから、まさか、こんなとこにきてるなんて……」
「タレントに出し抜かれるくらいなら、マネージャーなんかやめちまえ!」
真帆にあたらない分、雷を落とされ、良太と同年代くらいだろう石倉はさらに恐縮する。
「は、以後、気をつけます! 申し訳ありませんでした!」
石倉は深々と頭を下げ、「ほら、帰るぞ、真帆」と真帆を急かしてオフィスを出て行った。
全く。
二人が出て行くと、工藤は大きくため息をつく。
参ったな……。
疲れている上にこの事態で、重い足取りの工藤は上にある自分の部屋に向った。
一応、せっかく持ってきてくれた弁当だ、ほうっておくわけにもいくまい、と、工藤は紙袋を下げてオフィスに鍵をかける。
良太にでもやるか、と考えてから、はたと、「あのバカ、変に勘ぐってるに違いないな」と口にする。
部屋に辿りつくと、ふと、隣の部屋の気配を探る。
まだ起きてるだろうが……
ドアを叩くかどうかしばし逡巡し、とりあえず自分の部屋のドアを開けたところで、隣のドアが開く音がして、良太が顔をのぞかせた。
思い切り目が合って、良太は「さ、酒切らしてたから、買いに行くんだ」と言う。
言い訳でしかないのはわかっているが良太も意地がある。
もしや真帆を部屋に連れこんでいるのかも知れないと思うと、いても立ってもいられなくて出てきたのだが。
「酒ならあるぞ」
ドアを開けながら、工藤はしごく冷静に言う。
「うまそうな弁当もな。食うか? 一人じゃ食べきれないからな」
「真帆と一緒に食ったんじゃないのかよ」
恨めしそうな目で良太は工藤を睨みつける。
「あの女なら、とっとと石倉に迎えにこさせた」
「弁当食う間もないくらい、何やってたんだか」
「俺はたった今帰ってきたばかりでありがた迷惑な弁当の始末に困っているだけだ。来るのかこないのかさっさとしろ」
工藤はぶすくれている良太にはお構いなく、部屋に入っていく。
「えっらそうに……」
良太はそんな工藤を追いかけてしまう自分がまた情けない。
良太が入ると、ドアは勝手に閉まった。
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