月さゆる13

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 工藤がシャワーを浴びている間に、何だか悔しくて、良太は真帆の持ってきた弁当をつつく。
「あれ、うまいじゃん」
 一人分をあらかた平らげ、勝手知ったるで、冷蔵庫からビールを出して飲む。
 工藤が風呂から上がると良太は入れ違いにトイレに入った。
「食った食った。悪いな、弁当、俺が相伴にあずかっちゃって」
 良太は洗面台で自分の顔を見つめ、はあ、と息をつく。
「こんなことでごまかされないからな」
 バスルームから出てくると、良太は「真帆にうまかったって言っといて。んじゃ……」と玄関へ向う。
「待て、待て」
「てっ! 何しやがる!」
 後ろ首をつかまれ、良太は部屋へと引き戻される。
「せっかくきたんだから、そそくさ帰ることもないだろう?」
 見上げると工藤の妖しい眼光がしっかと見据えている。
「冗談じゃねーや、俺を真帆の身代わりにしようたって、そうは問屋が………」
 降ろしてしまったようだ。
 いつの間にか工藤に入り込まれ、声を上げている。
「あ……いや、だ……」
「いや、じゃなくて、いい、だろ。日本語は正しく使え」
「この……クソオヤジ……っ!!」
「待ってたくせに、何をほざいてんだ……」
 暖簾に腕押し、ぬかに釘な工藤の口にかかっては、良太ごときでは到底かなわない。
 良太をじらして泣かすのを楽しんでいる。
 憎たらしいと思うのとは裏腹に、良太の身体はいやおうなく悦ぶし、いつも以上に念入りに攻め立ててくれる工藤にすがってしまう。
 そんな自分が情けないと良太が後悔するのはことが終わってからで。
 真帆のことにしても、なし崩しにうまく丸め込まれた気がする。
「オーロラの編集、お前もつきあうか」
 くわえた煙草に火をつけながら、何気に工藤が言った。
「え……」
「それなりに成長したな、工藤が言ってたよ」
 以前、下柳がボソッと良太にもらした。
 工藤は自分に何かしらの評価をしてくれているのか、と、良太はそんなひと言がひどく嬉しかったのだ。
 どうせなら、直に言ってくれればいいのに。
「明後日の午後、スケジュールはどうだ?」
「あ、大丈夫です」
 さっきまで、散々憎まれ口をきいていたのだが、つい、社員に戻って良太は答える。
 工藤は鼻で笑い、煙を吐き出す。
「何がおかしいんだよ!」
 工藤はベッドの横のテーブルに置いてある灰皿で煙草をもみ消すと、おもむろに良太に向き直る。
「やり足りないって顔だな。もう一る。
「ちょ……、冗談だろ? 俺、もう身体ぎしぎしなのに! 年を考えろよ!」
「うるさいやつだな、サービスしてやろうってんだから、ありがたく思えよ」
「サービスなんか、いらねーってば! おい!」
「ウソつけ………」
「……………」
 また、とどのつまり、結局巧みな口づけに飲み込まれた。
 怒涛のような工藤のサービスのお陰で、翌日は眠いわ、だるいわで、良太は極力デスクワークに徹したというのに、工藤は朝早くから、とっとと出かけていった。
「…ったく………、いい気なもんだ、あのクソオヤジ」
 それでも、やっぱすんげぇ好きなんだ、あんなクソオヤジなのに。
「編集、つきあうか?」
 そんな、どうということのないひとことでさえ、ほんとは飛び上がるくらい嬉しかった。

 


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