ACT 3
クライマックスシリーズは二位以下を圧倒する実力を見せつけて勝利を決めたものの、日本シリーズは関西タイガースが三勝四敗で負け、結局日本一にはなれなかった。
だが、リーグ優勝は関西の方を未だに賑わしている。
沢村からちゃんと話をしようと言われていて、良太は仕事が終わらないからとぐずぐずと引き伸ばしていたが、来週にも会うことにした。
ただ、まだ沢村の申し出に応えるかどうか、良太の中では迷いがあった。
オフィスの空気がまたどんよりと淀んでいるのに気づいたのはアスカだった。
海外ロケから帰ってきて良太にもカッコいいネクタイとかをお土産に買ってきたのに、受け取った良太に覇気がない。
「あ、しまった………」
なんて言葉が、しょっちゅう良太のデスクの方からも聞こえてくる。
「何よ、どうしたっていうのよ、ここんとこ、この空気のどんより具合は。空の雲より重いわよ」
アスカは喚き散らすが、良太も鈴木さんも相手にもしない。
「工藤さんも、何だかヘンだったわよね?」
スケジュールの確認にいそしむ秋山に、アスカはこそっと話し掛ける。
「何、またあの二人、痴話げんかでもしたのかしら? 冗談じゃないわ。とっとと工藤さん、良太に謝って、何とかしてよ、この空気」
「さしあたって思い当たるのは黒川真帆……ですかね」
表情には出さないものの、秋山もどうやら気になっていたようだ。
「あのバカ女! わかったわ、私が言ってやるわ。もう工藤に近づくな、って」
「人のことにそこまで首を突っ込むものではありませんよ」
「人のことって、良太のことよ? ほっておけるわけないでしょ?」
案外、正義感なアスカ嬢なのだ。
「いえね……これはまだはっきりしてるわけじゃないんですけど……」
二人の前にお茶を運んできた鈴木さんがぼそぼそと口にした。
「何? どうしたってのよ?」
鈴木さんは二人を近くに寄せる。
「うっそーーーーー!」
告げられた思いも寄らぬ事態に、アスカは思わず大きな声を上げる。
「何よ、それ、冗談でしょ?」
「いえ、小田先生のとこの安井さんのほうから、こんな噂を聞いたんだけどほんとか、ってこっちに聞いてきたんですよ。私も、良太ちゃんに聞きたいんだけど、確かめる勇気がなくて」
鈴木さんは詳しく聞いたわけではないが、S&Wコーポレーションという会社に良太が行くことになったが、良太の代理人として話を聞いてくれ、と工藤から小田に話があったのを安井が耳にしたので、即、鈴木さんに確認とってきたというわけだ。
「良太がいなけりゃ、今じゃこの会社終わりよ? 工藤さんてば、一体どういうつもりで」
良太に問いただそうにも、何だか、目に見えないバリアーを張り巡らせている感じで、気軽に近づけそうにない。
三人はしばらく顔をつき合わせていたが解決の糸口はつかめず、そのまま時間がきてアスカと秋山は出かけていった。
良太は仕事をやっていても、キーボードは間違えるわ、電話をするのを忘れるわ、コピーを取ればファイルを間違える、考えられないようなうっかりミスを連発して、我ながら情けないとため息をつく。
ここんとこ、ちゃんと寝られない上に夕べ寒かったのに、ぼおっとしていて風邪を引いたらしい。
いつもなら、栄養ドリンクと風邪薬ですぐに効くはずなのに、今回はどうもかんばしくない。
喉も痛いし、頭痛もする。
しかし、最期まできちんとやり遂げないと、自分としても気がすまない。
工藤に言われていた映画の企画書だ。
なんとしてもこの仕事くらいはやってしまおう。
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