月さゆる21

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「良太ちゃん、大丈夫なの?」
 鈴木さんは昨日の今日で風邪を押して出てきている良太を気遣ってくれていた。
「ええ、夕べぐっすり寝ましたから、もうてんで平気です」
 薬で抑えてはいるものの、実はまだ熱っぽい。
 体がだるい。
 ほんとは切れ切れの夢を見ては目が覚めた。
 それも工藤が自分を罵倒して去っていくような、嫌な夢ばかりだ。
 世の中で本当にたった一人だけになったように心細くて、風邪が治らないのは工藤に捨てられたせいのような気がした。
 工藤がドアをノックしたのも良太はわかっていた。
 声を聞いただけで嬉しくなったりして、俺はバカだ。
 今更、気休めみたいに優しくするなよな!
 良太は企画書を夕方までに仕上げるつもりだった。
 昨日、工藤に言いそびれたが、今夜、沢村と会うことになっていた。
 時間は九時、沢村のホテルの部屋だ。
 何だか熱も上がってきそうなので気が進まないのだが、現実は現実だと、良太は先送りにしていた問題に決着をつけようと思ったのだ。
 
 
 
 
 午後七時を回った頃、工藤がアスカや秋山と一緒にオフィスに戻ってきた。
 小笠原も少し前に戻ってきて、どこからか聞き込んだらしくしきりに良太に、何で辞めるんだ、ウソだろ? と問いただすので、良太は閉口していた。
「工藤さんとはもう話がついてるんだ。工藤さんに聞いてくれ」
「おい、良太……」
 小笠原は情けない顔で良太をみつめた。
 電話をしていた工藤が振り返ると、良太が意を決して声をかける。
「あ、あの工藤さん、すみません、今晩、八時であがらせてもらっていいですか? 沢村と会う約束があって……」
 途端にオフィスがシーンと静まり返る。
「ああ。かまわないが、風邪は大丈夫か?」
「ええ、もう全然……」
 しかし工藤は良太の目がうるうるしているのは熱のせいだろうと、苦苦しい顔で良太の顔を見つめる。
「……そうか。ならいいが。ああ、明日は自分で行くから、迎えはいいぞ」
 工藤はそう言い残し、オフィスを出て行った。
 ふうとちょっと息をつき、良太はまたデスクのパソコンの前に戻る。
「何なのよ、何なのよ、このブリザードは! もう」
 小さい声でもアスカの声はよく響く。
「だいたい、あんたのせいよ!」
 アスカは小笠原に矛先を向ける。
「何で、俺のせいだよ?」
「よく、胸に手を当てて考えたら?」
 小笠原は言われたとおり素直に胸に手を当てて、しばらくしてから小首を傾げた。
 
 
 
 
 良太は八時になるのを待って、ノートの電源を落とし手立ち上がった。
「それじゃ、お先に失礼します。秋山さん、あとよろしくお願いします」
 コートを掴み、オフィスをあとにすると、タクシーでホテルへ直行した。
 まだ時間が早いのでホテルのラウンジで軽くサンドイッチでもつまもうと思ったのだが、どうにも食欲がわかない。
 ミルクティだけすすり、それで薬を流し込む。
 しばしうとうとしていたようだ。
 時間は九時十分前になっている。
 良太が立ち上がったとき、携帯が鳴った。
「ああ、今ラウンジにいる。今上がっていく」
 沢村だった。
 部屋で待っているからという。
 密会のようなシチュエーションに、ふと上で待っているのが工藤だったらなんて思ってしまい、良太は自分に呆れる。
 俺って、やっぱ、ほんと、工藤が好きなんだ………
 同時に何度目かの再確認をして、良太は大きく息をつく。
 俺だけてんぱってたってな……
 空しい笑いを浮かべ、エレベーターを降りる。
「よう、待ってた」
「お邪魔します」
 良太を中に招き入れると、沢村はドアを閉めた。


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