テーブルには酒とつまみの用意がしてあり、デスクの方にノートパソコンが開いていた。
「まずは一杯」
シャンパンなら、少しくらいいいか。
良太は勧められるまま、グラスを傾ける。
リビングのテーブルには英語で書かれた契約書らしきものが散乱していた。
「今日こそは、契約してもらうからな」
「何か俺、期待されてる新人ピッチャーみたいじゃん」
「そのものだろう?」
沢村は契約書を揃えて、良太の前に差し出した。
「待て、ほんとにいいんだな? 俺は無理強いだけはしたくない。お前にいやいややらせるのは意に反するんだ」
ペンを持ってサインに向かおうという良太に、沢村がやんわりと念を押した。
「いいよ。お前が拾ってくれなかったら、もう、俺行くとこないし。工藤にははっきり引導渡されたよ。俺なんか要らないってさ。もっと即戦力になるやつを入れるんだと。はは、俺なんて、工藤にとって、その程度の存在だったんだよ」
「…良太…お前…」
「え…」
顔を上げようとして、良太は頬を伝う冷たいものに気づいて慌てて手で拭う。
「どうしたんだろ、俺、熱がまた上がったのかな。何か、くらくらする。ちょっと休んでいいか?」
「あ、ああ、大丈夫か?」
良太はソファにそのまま横になった。
「おい、良太……げ、すごい熱じゃないかよ」
良太の顔が赤いのが気になって、額に手をあててみた沢村は声を上げる。
「手、冷たいな、気持ちいい」
「気持ちいい、じゃ、ねーだろ、良太………」
「あれ、熱のせいで涙腺が狂ったのかな……なんか、とまらねー」
どれだけこすっても、涙は溢れ出る。
「……工藤に引導渡されてショックだったのか?」
沢村の手が優しく良太の額から髪に触れる。
「…工藤…なんか……工藤……なんか、あんなやつ……」
今まで我慢していたものが、堰を切ったように溢れ出す。
熱のせいなのか、シャンパンのせいなのか。
「工藤とお前、関係があったのか?」
唐突な沢村の質問に、良太は戸惑う。
「言え、良太」
沢村の手が良太の首を押さえ、沢村は良太の上に伸しかかるように身体を倒して聞いた。
「か…んけい……って」
「わからないと思ったか? お前のやつを見る目を見てればいやでもわかる。やつにやられたのか?」
「沢村…苦しいって、離せ……」
良太は沢村の手を掴んで呻く。
「だったら、言えよ、あったのか?」
「……俺が勝手に好きだっただけだ……工藤にはこんな簡単に放り出せる程度のもんだったんだって……」
酒のせいなのか、やけっぱちなのか、つい何もかもぶちまけていた。
「良太……」
「……俺、バカみたいだろ………でも……好きなんだ……工藤のこと……運転手でも、パシリでも仕事なんか何でもいいんだ、あの人の傍にいられれば……」
良太は懸命に涙を手で拭いながら言葉をつなげる。
「何で……」
「え……」
「……ばかやろう!」
いきなり唇がふさがれ、良太は一瞬何が起こったのか判断しかねたが、沢村にキスされているのだと知ると、にわかに抵抗する。
「や、めろ………さわ……」
鍛え上げられた腕は良太には押し返すこともできない。
執拗に良太を追い詰めるかのような唇がようやく離れた。
「バカ! 何しやがる! 何で……」
「俺だって好きだ、良太」
「離せよ!」
「キス以外のこともしてみる?」
「バカヤロ! 何考えて……」
「俺が工藤のことなんか忘れさせてやるよ」
良太は驚き、熱っぽい頭ながらも、何とか沢村から逃れようと手や足をばたつかせる。
「良太……」
良太は何とか沢村から這い出して、床に尻を据えたままあとずさる。
「バカヤロ! バカにすんじゃねー! 俺を何だと思って…」
何でだ。
何で、沢村までが………
「俺、男なのに……そんな、お手軽そうに見えるわけ…?」
笑えてくる。
「お前も工藤もまとめてクソクラエだ!」
「違う、良太、聞け……俺は……」
「近寄るな!」
良太はようやくふらつきながらも立ち上がり、沢村を睨みつけると唇を噛み締めながら部屋を飛び出した。
「待て、良太、そんな身体で……」
もう、聞く耳はない。
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