月さゆる24

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   ACT 4
 
 
 退院手続きをちゃっちゃと済ませた工藤は、良太をジャガーのナビシートに乗せてハンドルをきった。
「学習って言葉を知らんのか、お前は」
 ムッツリしたままの良太は返事もしない。
 車は青山通りに入り、信号で停まる。
「俺のことなんか、ほっとけばいいじゃん。どうせ、クビにするんだろ」
 我慢できなくなって、良太はたまっていた胸のつかえを吐き出した。
「クビにするなんて、誰が言った。お前の好きにすればいいと言っただけだ」
「ていよく追い払いたいだけのくせに! んなもん、言われなくてもとっとと出てってやるよ」
 車はやがて、青山プロダクションに着いた。
「ふーん、行くところがあるんならな。沢村と契約しなかったんだろ? じゃあ、借金はどうやって払うつもりだ?」
「そんなもん、何したって、返してやらあ!」
 啖呵を切って車を降りた良太は、後部座席の自分の荷物を取り出して、自分の部屋に向かうべくたったかエレベーターの前に立つ。
「ちくしょー、本性現したな、クソオヤジめ!」
 ぶつぶつ呟く良太に工藤は苦笑する。
「何だと? ふん、部屋ひとつ借りるったって、ただじゃないんだぞ? まあ、お前が頭を下げるんなら、また引き取ってやってもやぶさかじゃないが」
 良太の背後で工藤は不遜な台詞をはく。
「うるさいうるさい! 俺はリサイクル用品じゃねー!」
 くるっと振り向いてそう叫ぶと、開いたエレベーターに乗ってすぐドアを閉めようとするが、足を突っ込んで工藤はそれを阻止し、平然と乗り込んでくる。
「俺はもうあんたなんかに、金輪際世話になるつもりもないんだからな!」
「ふん、カボチャ頭をよおおく捻って考えるんだな」
 工藤はオフィスのある二階で降りしな、そんな台詞を言い残した。
「くそ、誰があんたなんかに!」
 二晩熱にうなされて、三日目にやっとさがり、退院の許可が出たのはその翌日のことだった。
 沢村と一緒に巻き込まれた喧嘩で脳震盪を起こしたため救急車で運ばれた先の病院で、肺炎だから入院しろといわれた、という話だった。
 工藤が説明してくれたところによると。
 沢村も来てくれてたみたいだが、退院するという今日、迎えに来たのは工藤だった。
 だが熱が下がってからその日のことをよく思い出してみると、工藤は良太に、沢村と契約しろ、会社にお前はもう必要はない、と言ったのだ。
 しかも即戦力になる人間を入れる、とまで言った。
 思い出すとひどく哀しくて、苦しくて、悔しくて、良太は泣いた。
 どうせ自分はその程度の存在だった、ってことだ。
 工藤にとって。
 確かに、一生懸命やったからといって、仕事のエキスパートになれるとは限らない。
 自分の能力外だということもいくらもあり得るわけで。
「にゃあああああんんん~」
 ドアを開けるなり、ナータンがいかにも怒っていたというように、鳴きながら擦り寄ってくる。
「ごめんよぉ、ナータン、随分留守にしちゃって」
 ナータンの皿にはキャットフードとちゃんと新しい水が置いてある。
 おそらく鈴木さんが良太の留守中世話をしてくれたのだろう。
 トイレもきれいになっている。
「あとでお礼言わなきゃな」
 しばらくぼうっとベッドに座っていたが、何だか考えるのも億劫で横になる。
 動くたびギシギシうるさいし、このパイプベッドもいい加減ボロになったから買い換えよう、なんて思っていたが、ここを出るとしたら、そんなことも言ってられないだろう。

 


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