月さゆる25

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 目を閉じると、いつの間に飛び乗ったのか、ナータンが傍にきて良太の顔をペロペロなめている。
「よしよし……」
 退院したとはいえ、まだからだがだるい気がする。
「仕事、か……」
「じゃあ、借金はどうやって払うつもりだ? まあ、お前が頭を下げるんなら、また引き取ってやってもやぶさかじゃないが」
 さっきの工藤の言葉が頭の中でリフレインして腹が立ち、良太は「くそーーー!」と雄たけびを上げながら、からだを起こす。
「俺だってその気になれば……そうだ、ホスト、ホストって手がある!」
 日に数百万と稼ぐ連中がいるらしい。
 そこで鍛錬を積めば…………。
「けど、NO1とかにならないと、それって無理か………いくら鍛錬を積んでも、この顔じゃな……」
 工藤なんか外見だけならホストでも充分やっていけそうだ。
 それに知性ってやつも備わっているときてる。
「ま、あの性格じゃまず無理だけどな」
 なんとでもケチをつけなければ気がすまない。
「何か、俺にできて、借金も返せる仕事ってないかな」
 ごく普通のサラリーマンでは、返すのに何十年もかかってしまう。
 今からいろんな資格を取るっていっても時間がかかるし、とりあえずの収入も必要なのだ。
 さらにこの就職難のさなかだ。
「タレント、ってわけにもいかないし」
 もし仮にどこかの事務所に拾ってもらえたとしても、それこそ工藤に大笑いされそうだ。
 ハハ、と空笑いして良太はまたベッドに倒れこむ。
「………情けねぇ………」
 何をやったとしても、きっとどこかで空虚さが拭えない。
 工藤に言われた仕事なら、怒鳴られながらでも何でもよかった。
 お前は要らない、なんて……………。 
 
 
 
 昨日から急に気温が下がり、びゅうびゅう唸るような北風が、枝にかろうじてへばりついていた葉をもぎ取っていくようになった。
 ソファの横に立って体感温度が一気に下がりそうな外の情景に視線をあわせつつ、工藤は受話器を置いた。
「コーヒー、ここに置きますね」
 大テーブルにいれたてのコーヒーを置いて、鈴木さんはトレーをキッチンに戻しに行った。
「何だか、今にも雪でも降りそうな空ですね~」
 良太は部屋にいるし、みんな出払っていて、オフィスには二人だけだ。
「良太ちゃんの具合、もうよろしいんですの?」
 いつ聞こういつ聞こうとやきもきしていた鈴木さんは、思い切って訊ねた。
「ああ。熱は下がったし、やつのことだ、美味いもんでも食えばすぐ元に戻る」
 鼻で笑い、工藤はコーヒーをすする。
「良太ちゃん、辞めたりしませんよね?」
「ああ、それは良太次第だろう」
 さらりと工藤は答えた。
「そんな、良太ちゃん次第って、工藤さん………」
 あんなに工藤さんを慕っているのに………。
 オロオロと、鈴木さんは自分のデスクの傍で立ち竦んだまま、どういう言葉を口にしたものか迷っている。
「良太、帰ってきた?」
 騒がしくオフィスのドアが開いて、入ってきたのはアスカだった。
 続いて秋山が顔を見せる。
「いないじゃない! 今日退院じゃなかったの? まさか工藤さん、ほんとに良太を辞めさせたんじゃないでしょうね」
 良太のデスクに誰もいないのを見て、アスカが工藤にくってかかる。
「俺が辞めさせるんじゃない、良太が決めることだ」
「何よ、それ!」
 泰然自若たる工藤の態度に、アスカがキレる。
「もしほんとに良太辞めさせたりしたら、あたしも辞める」
「アスカ、いい加減にしなさい」
 アポの電話を入れようとしていた秋山が、強めの言葉でアスカを戒めた。
「良太、帰ったって? 快気祝いしようぜ」
 次に戻ってきたのは真中を従えた小笠原だ。

 


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