月さゆる6

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   ACT 2
 
  

 やっと関西タイガースの優勝が決まったのは、良太が黒川真帆のことでもやもやしながら小笠原のドラマの撮影で忙しなかったそんな時だった。
 代打で出たベテラン選手が打たされた最後の打球がポーンとあがり、やがてキャッチャーミットの中に吸い込まれる。
 残念ながらホームグラウンドではなかったが、同時にどよめきがうねりとなり、大地を揺るがすような歓声へと変わる。
 この瞬間、関西中が、いや全国各地の隠れ関西タイガースファンたちも狂喜乱舞したに違いない。
 選手たちが待ちかねたようにグラウンドに駆け出した。
 花火が上がる。
 星川監督の体が宿敵の前で五回六回と宙に舞う。
 関西タイガースは二年ぶりのリーグ優勝をとげた。
 
  

 
 
 リーグ優勝はちょうどパワスポの放映日で、最初から出演を快諾してくれていた星川監督、沢村をはじめ、数人の戦士が番組に出演してくれたお陰で視聴率もぐんと上がり、テレビ局もスポンサーらも大喜びだ。
 沢村の三冠王というタイトルもチームの優勝に華を添えた。
 もちろん番組スタッフも嬉しさを隠せないようで、ディレクターの殿村は、やったな、と良太をねぎらう。
 いつもなら皮肉の一つもいうはずの大山も実はタイガースの優勝を喜んでいて、珍しく笑っている。
 この時、スタジオに工藤もいて、沢村と初めて直に挨拶をかわした。
 番組が終了したあと、もう真夜中を過ぎていたが、沢村は良太に約束だから一緒に飲もうと誘ってきた。
 翌朝の番組は他の面々にまかせたいがそういうわけにもいかないが、という沢村に、ここのところの鬱憤を晴らしたい思いもあって、良太はついていった。
 どこかの店に行くのだと思いきや、沢村は東京では定宿としているホテルの部屋に良太を連れて行った。
 邪魔が入るのはいやだし、実はお前に大事な話があるとあらたまって言う沢村に、良太は笑う。
「それって、彼女にプロポーズ、とかいうシチュエーションだろ? そういや、彼女には連絡したのか?」
「一年前に別れて以来、いない」沢村は言い、「お前は?」と聞く。
「………俺は……」
 良太は言いよどむ。
「彼女なんか作る暇ないよ」
 テーブルにはルームサービスで用意したと、冷えたシャンパンや焼酎とグラス、それにチーズや生ハム、イチゴや桃などのフルーツが彩りよく器に盛りつけられていた。
「まずは乾杯!」
 沢村はカーテンを全開にして、夜景を見下ろしながら良太とグラスを合わせる。
「中川アスカとか、お前の事務所だろ?」
 グラスのシャンパンを一気に飲み干した沢村が唐突に聞いた。
「冗談いえよ。我侭なお姫様だぜ」
 工藤がいなかったとしてもあり得ないと、美人だがきつい目を思い出してつい首を横に振る。
「大学時代はえらくもててたじゃないか」
「お前に言われたかない。そりゃまあ、ちょっとはいい気になってたこともあったかもだけど、つきあうとかってなかったな。卒業を前にいろいろあったし」
「俺がプロに入った翌年か? お前も追いかけてくるかと思ってた」
 一瞬、良太は言葉に詰まる。
「それこそ冗談だろ? 大学までは自力で何とかなっても、プロの世界はそんな甘くない。俺は、うちの稼業を継いで、草野球チームでも作ろうなんて思ってたんだけどな。肇とかと一緒に。まあ、そりゃ、メジャーで大リーガーを三振にとるって夢は一%くらいは今だって持ってるけどな」
 すると沢村は高らかに笑う。
「うっさいぞ、沢村!」
 良太が突っかかる。


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