「肇って、あのクソ真面目なキャッチャーか?」
沢村もしっかり覚えていたようだ。
「ああ。こないだ久々に会ったら、お互いくたびれたサラリーマンになっちまってたけど」
ははっと良太は笑う。
「高校っていや、例の女子マネとはどうなったんだ? つきあってただろ?」
「かおりちゃんか? こないだ、肇と一緒に会ったけど。高校卒業して以来。俺んち、いろいろあったから、連絡もよこさないで、って二人に叱られた」
今となっては二人ともやっぱり良太にとっては大切な友人だ。
「お前んち、差し押さえで、一家して行方不明とかって風の便りに聞いて、お陰で俺はしばらく荒れてたな。プロ二年目の頃?」
「そんな、お前の耳に入るほど、町の噂になってたのか。まて、お前の荒れてたのを俺のせいにするのか?」
良太は驚きながら沢村に反論する。
「そしたら、今度はテレビなんかに出てやがるし、このやろうってどついてやるとこだった」
「だから、あれははずみだって前にも言っただろ」
いきなり沢村にまで黒歴史を持ち出されて良太は言い返した。
「ドラマなんかにも出ただろう」
「だからほんのピンチヒッターだったんだって」
むきになって良太は言った。
「社長の工藤に言われて?」
「え……工藤には猛反対されたさ、ど素人のでる幕じゃないって。わかってたんだけど」
「なかなか堂にいってたって聞いたぞ、マスコミの連中から」
「マスコミ詳しいんだな」
「別れた彼女、女子アナだったからな」
フンと沢村は鼻で笑う。
「ちぇーーー、これだからな~~。野球選手ってそれだけで得なのに、ガタイもいいわマスクもいいわ、女優だろうが女子アナだろうが、世の男の羨望でそのうちバチ当たるぞ! お前なんか吐いて捨てるほど言い寄ってくるんだろ? 俺と飲んでる暇なんかないぞー。ちくしょー」
女子アナという言葉が引き金になって、シャンパンをがぶ飲みした良太は一気に酔いが回り始める。
工藤に堂々と言い寄っていた室井のこと以来、女子アナ、は良太の中であまりいい響きを持っていない。
そして今度は人気女優の黒川真帆だ。
だが計算高い室井とは違い、いい女で、しかもバカ正直に思いをぶつけている。
むしろ、表裏もなく好感度が高いくらいだ。
「真帆のやつ、メチャ、マジ」
小笠原が言っていた。
「フェロモン撒き散らしやがって、もう知るか! バカ工藤!」
ついつい思考が工藤に向いてしまう。
「工藤? 工藤がどうかしたのか? それに一つ聞きたかったんだ。お前、工藤に何か借りがあるのか? だから脅されて、あのヤクザのところで使われてるのか?」
「工藤はヤクザなんかじゃない!」
すくっと立ち上がり、良太は沢村に怒鳴りつける。
「おい、良太…」
「確かに、工藤の親はヤクザの娘かもしれないが、母親は亡くなったし、物心着く前に工藤は祖母の実家に引き取られて、ヤクザなんかとはきっぱり縁切ってんだ!」
良太の剣幕に沢村はちょっと驚く。
「わかったよ、悪かった。もう、いいから、座れ!」
「許さねーからな! 俺は! 工藤のこと知りもしないで、工藤の苦労も知らないで、勝手なこと言うやつは」
「だから、わかったって、工藤はヤクザなんかじゃないんだろ? しかし、そこまでお前の忠義心をかきたてるほどの、何が工藤にはあるんだ?」
「忠義心……」
酔っている良太は倒れ込むようにソファに腰を降ろした。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
