「確か前に、お前、あいつをかばって刺されたことあったな? 驚いたさ、あれがお前の消息を知った始めだった。野球しか能のなかったお前が、いきなりテレビとか雑誌とかで取りざたされてみろ? 何があったのかって思うに決まってるだろ」
断言するように沢村は言った。
「よく、気づいたな、お前。顔が出たわけじゃないから、肇もかおりちゃんも、気づかなかったのに」
「俺はお前のことなら何でもわかるんだ」
沢村は良太にきつい眼差しを向ける。
「何、言ってんだか」
良太は苦笑する。
「工藤がお前の負債をぽんと肩代わりしたから、お前、工藤に恩を感じて、やつの身代わりに刺されたのか?」
良太は驚いた。
「何でそんなことまで、お前……、そんな噂まで業界で広がってるのか……」
「そんなんじゃないって。悪いと思ったが、気になったからちょっと調べたのさ」
「確かに、工藤には足を向けて寝られないくらいの恩はある。だけど、あの時刺されたのは、俺の不注意で、別に義理立てしてとかいうわけじゃない」
逆に工藤に迷惑をかけたと、良太は悔いている。
「三千万ごときと命を引き換えになんかするなよ」
今度は沢村が声を荒げる。
「するか! あのな、それに毎月俺の給料から引いてもらってるんだよ」
「なるほど。だったら話は早いな。その残額プラスαで、俺に引き抜かれないか?」
「はあ?」
話が飲み込めず、良太はぽかんと沢村を見つめる。
「大事な話ってのはそれさ。これはヘッドハンティング、商談だ」
「ヘッド……ハンティング……って、ナニそれ……」
「ほんとは今年中にでも、メジャーに行くつもりだった」
ドキリとして良太は沢村の次の言葉を待つ。
「だが、世話になったタイガースにあと一年くらい、俺も恩返ししたいからな。来年のオフ、俺はメジャーに行く」
「けど、お前まだFAは……」
「FAなんか待っていたら、一番いい時を逃すことになる。ジジイんなってから記念に、なんてのはごめんだからな。ポスティングで行く」
沢村はきっぱりと言い切った。
「けど、ポスティングは金がかかり過ぎるから、成立するかどうか……」
「辞めてでも行く。もう決めてるんだ」
沢村の決断はちょっとやそっとのものではないらしい。
「そうか。お前なら、きっとメジャーでも活躍するさ」
「もちろんだ。で、お前を連れて行きたい」
良太は耳を疑った。
「へ?」
「一緒に行かないか?」
「ちょ、ちょっと待てよ」
どうやら聞き違いではなかったようだ。
「確かに、俺の夢はメジャーで野球やることだった。だが、それが九十九%不可能だってことくらい、いくらなんでもわかってるだろ?」
「九十九.九%くらいな」
沢村は笑った。
「てめー、はっきり言いやがったな? 言っとくが一%くらいはあるんだよ!」
「俺がお前に求めているのは、一緒にメジャーでやるってことじゃない。俺の作るチームで、やらないかってことだ」
「お前の作る、チーム?」
「もう、プロに入った頃から考えていた。実は向こうで一緒にプロジェクトをやってるビジネスパートナーもいるんだ。現地には頼れる代理人がいて、一緒にチームやってくれる人間を探している。俺は、お前の語学力と、業界で培われたキャリアを買う。お前は、経営に携わると同時に、好きなだけ野球ができる。野球とは程遠い今の環境から抜け出すことができる」
良太は思いもよらない話に、しばし頭がついていかなかった。
ほとんど忘れかけていたくらいだ。
自分が昔、野球をやっていたなんて。
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