さすがにあの世界の跡目争いとかって血みどろの戦いで、その辺の相続争いとかと次元が違うから、ほんと、いい加減にしてほしいよな。
良太が妄想をたくましくしているうちに、車は檜山家に着いてしまった。
「まだ三十分はあるか、約束の時間まで」
そのまま待っていようと、良太は車を門の横に停めた。
すると間もなく、ギギギ、と音がして、門が開いた。
同時に携帯が鳴った。
「あ、ちょっと早く着いちゃったんで、え?」
入るようにと言われ、良太はエンジンをかけた。
駐車スペースに車を置くと、玄関が開いて、檜山が出てきた。
「どうぞ入れよ」
「すみません」
「どうせぼおっとしてただけだし」
檜山は良太を離れの方に案内した。
立派な和風建築の横に明治あたりに建てられた和洋折衷が母屋で、祖父や檜山はこちらを住居にしていたという。
「門はセキュリティの関係で、近年造り替えたんだけど、建物の景観を壊さないように元の門の上下に何か取り付けて動くようにして、カメラも設置したんだ」
通されたリビングにはソファセットと古そうなアップライトピアノが置いてあった。
「コーヒーでいいよね」
「ありがとうございます」
大き目のマグカップからコーヒーのいい香りがした。
「広いですね、ほんと」
良太はあたりを見回した。
リビングは二十畳くらいありそうだ。
「俺と祖父と家政婦さんくらいしかいなかったから、使う部屋とかも限られてるし、掃除とかとてもじゃないけど俺だけじゃ無理だから業者に頼んでる」
「おじいさん、亡くなられたんですね」
「ああ、三年前。心臓で、その頃には家政婦さんも亡くなってたから、通いの看護師さんから連絡もらって、ニューヨークから飛んできたけど、それでもちょっとは意識が戻ったんだけどね、それからすぐに」
「寂しいですね」
「うん」
素直に匠は頷いた。
「こっちには友達もいなくて、ほんと一人になってどうしようって途方に暮れた」
途方に暮れない方がおかしいよな。
こんなでかい家、しかも文化財とか、背負いこんだりしたら。
「ご実家とはどうなんですか?」
当たり障りのない聞き方で良太は尋ねた。
「俺は檜山の人間になったけど、兄とはたまに連絡を取り合ってる」
え、そうなんだ。
良太はちょっと驚いた。
どろどろの争いって聞いたけど。
「争っているのは兄を担ぎ上げたいやつらと俺を担ぎ上げようとしたやつら。俺には全然関係ないから、そんなやつらと。俺が家を出て自分の地位が危なくなった連中はいるみたいだけどね」
「今はお兄さんが宗家?」
「宗家を継ぐことになってる。大変だよね、あんな大きな流派背負うとか」
「そんな他人事みたいな」
良太は苦笑する。
「いやもう他人事。父親は嫌いだから絶交中だし。一応祖父の葬式には顔を見せたけどね」
「はあ」
こっちも父親との確執か。
お前は幸せな家庭に育ったんだ、なんて工藤も言ってたけど、確執とか相続争いとかとは縁がない分、確かに俺って幸せかも。
良太は心の中で呟いた。
「ボスはここの撮影来るのか?」
「明後日の撮影には工藤も顔出すはずです」
「そうか」
檜山はにっこりと笑った。
その笑顔に良太はドキッとする。
よもや、まさか、本谷パートツウなんです~とかってんじゃないよな?
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