工藤をタカヒロと呼んだり、工藤と一緒に仕事をしているうちに、まさかあのオヤジに懸想しましたなんて、ないよな?
いやいや、いくら、工藤が、男にもよく言い寄られる、んだとしてもだ、そんなレアなケースが立て続けにとか、いくら何でも考えすぎだっての。
病院の女性看護師陣には、イケオジとかって受けてたみたいだけどさあ。
「匠って、研二さんとはどういうお知り合い?」
良太は前から聞いてみたかったことを口にした。
「ああ、兄と一緒に何かの茶会に出席した時、茶会が終わってから亭主が出席していた研二に紹介してくれたんだ。美味しい菓子を造るって」
「へえ。研二さんの造るお菓子ってほんと美味しいですよね。今年の二月に仲間うちでスキー合宿やった時、研二さんも参加してて、お菓子を造ってくれて。でもお菓子だけじゃないんですよね、京助さんとかと一緒に食事も作ってくれたり」
沢村の件もあったものの、結構面白かったな、と良太は思い出して笑った。
だが、ふと檜山を見ると、ちょっと眉を寄せて珍しく渋い顔をしている。
「どうかした?」
「いや、スキー楽しかったみたいだな」
「ええ、ほんと合宿って感じで。研二さんて、一見武道家みたいな雰囲気なのに、菓子職人ですもんね」
「柔道の段持ちだからな」
「ですってね。なのに優しいし何て言うか、黙って見守ってて、何かってときの一言が重みがあるっていうか、包容力があるってああいう人のことを言うんですよね」
すると、檜山がじっと良太を見つめている。
「え、何ですか?」
「良太、研二のこと好きなのか?」
「へ?」
いきなり聞かれた良太は、一瞬戸惑った。
これはどういう意味で?
いや、まさかね。
「そりゃ、研二さん、いい人だし、好きですよ」
良太は笑って受け流そうとした。
「そうか。でも、ダメだよ」
檜山は視線を逸らす。
「え、何がです?」
「研二は、千雪のことしか目に入ってないから」
「は?」
良太の思考は停止した。
ややあって、ようやく脳みそが少しずつ動き始め、檜山の言葉を反芻した。
研二は、千雪のことしか目に入ってないから。
って、どういうこと?
確か、二人は幼馴染で、三田村さんとも同じ高校の同級生で、あ、辻さんも、ってことだったよな?
ん? 確か佐々木さんとバツイチ同士とかっても言ってたし、研二さんには子供がいるとかも聞いた気がする。
しばし頭の中を整理してみたが、良太は檜山の言った言葉の意味を把握しかねた。
「あの、それって、どうゆう………」
「言葉通りだよ。研二は子供の頃から千雪だけを見て生きてきたんだ。でも千雪は幼馴染の江美子と結婚すると思っていたから、大学から千雪と離れて、結婚したのは元ワイフの押しかけだったけど、研二は優しいから子供もできたし、でも結局元ワイフの方からダメになった」
淡々と語った檜山の話は、良太が考えたこともなかった展開であり、簡単に、へえ、そうなんだ、で済まされるような内容ではなかった。
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