「すみません、何か、スタッフがご迷惑をおかけしたみたいで」
良太が声をかけると、座っている牧が振り仰いだ。
「……いや」
確かに目つきが険しいかも知れない。
「あの、ひょっとして、目が悪いとか?」
すると牧の表情が変わった。
「申し訳ありません、コンタクトを片方失くしてしまったんですが、今朝時間が間に合わなくて」
以前そういう人がいたのを思い出した良太は、やっぱりかと思った。
「大丈夫ですか? かなり悪いとか?」
「まあ何とか歩けるくらいには。撮影には差し支えありません」
「そうですか。何か、支障があるようでしたら、いつでも言ってください」
「ありがとうございます」
話してみると普通に礼儀正しい青年だ。
目が悪い人は目つきとか、誤解されやすいよな。
それにこの人の場合、それ以外にもガタイ大きいし、そういう過去のことまで知られていると、誤解される条件になり得る。
工藤なんか誤解どころかそのままだけどな。
小杉とスタッフにそれを告げると、スタッフは反省しきりだった。
「そうだ、小杉さん」
良太は、匠のことや二村のことをそれとなく見ていてくれるように小杉に頼んだ。
「はあ、なるほどね。今回、トラブルらしいトラブルはないと思っていたんだが。確かに彼女、志村にも何だかんだ聞いてきてたな」
「そうなんですか。あまり度を超すようなら、マネージャーに話してみますよ」
しかし見ていると、マネージャーは二村の言うことをはいはいと聞いてやっているが、周囲に対しての配慮はあまりないように思われた。
「ああ、二村?」
谷川にも良太がこそっと聞いてみると途端眉を顰めた。
「あんまりいい印象はないな。奈々がよろしくって声をかけた時も、そっけない対応で、別にそれはいいんだが、最初、工藤さんに媚びようとして睨み付けられてやめたみたいだがな」
フンと谷川が笑った。
「吹けば飛ぶような新人が、工藤さんとか、千年早いって」
それを聞くと、良太はハハハと空笑いした。
ええ、俺なんか、最初っからニンピニンとかって工藤に言い返してたよな。
百年くらい早かったかな?
「どうもイケメン見ると媚びたい衝動に駆られるみたいだが、マネージャーは何も言わない」
「なるほど」
谷川の弁に良太は頷いた。
ということは小杉や谷川だけでなく、おそらく日比野監督も気がついているだろう。
しかし、ちょっと見まわしただけで、トラブルの元は大なり小なりあるようだ。
気合入れとかないとな。
良太は心の中で拳を握った。
だが翌々日の撮影になると、二村の我儘勝手が、徐々に良太が大なり小なりと思った程度では済まなくなりつつあった。
おそらく工藤がいないということが二村の気ままな行動を助長させていたのだろうとは誰の目にも明らかだった。
それが撮影以外であればまだしも、演技にも現れてくるとリテイクが多くなる。
その日、これはまずい、と思われたのは奈々と二村の場面で、二村が奈々の科白を邪魔するような動きをしたことだ。
途端に監督のカットがかかって、二度は二村が科白を噛み、これで三度目の撮り直しとなった。
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