「すみません、平川さーん、二村さんが転んでしまって、ちょっとお願いします」
まだ何か言おうとする二村を遮って、良太は詰めていたメディカルスタッフを呼んだ。
「二村さん、どこか怪我したんですか?」
マネージャーの下山も驚いてあたふたしている。
「二村さん、石畳につまづいたみたいです」
良太ははっきりと周りにも聞こえるようにマネージャーに説明した。
「うそ、あの人に転ばされたって言ったでしょ!」
二村はまだ明らかなウソを口にする。
この人はこれまで、そうやって平気でイジメをしてきたのかもと単純に推測させられる。
「二村さん」
良太は静かに諭すような表情を二村に向けた。
「それ、勘違いですよ」
良太が言うと、周りにいたスタッフから声がかかった。
「ああ、そうですよ、勘違いです、牧さん、そこに座って食べてただけです」
「そうそう、俺も観てた」
勘違い、という言葉で事なきを得ようとしたものの、二村はまだ面白くないらしく唇を噛んだままムッとしている。
その間にも救急セットを抱えた平川が二村を椅子に座らせて、転んで擦りむいた膝の手当てをしていた。
幸い擦り傷以外は足を捻ったりもしていないようなので、良太はほっと胸を撫で下ろした。
例え自分で怪我をしたとしても、撮影中に俳優に怪我を負わせたなど、まずいことに変わりはない。
「申し訳ありません、俺近くにいたのに、二村さんにお怪我をさせてしまいました。落ち着かれるまで少しお休みになってらしてください」
良太の進言を受けて、下山は二村と撮影に使っている家屋の中に入っていった。
しかしこれで、二村が出るシーンは彼女が出てくるまで撮影できないことになる。
「申し訳ありません、監督、彼女に怪我をさせてしまった」
良太は早速監督の日比野のところに行って、事情を説明した。
「聞いたよ。自分で転んだんだろう? 彼女。全く、困ったもんだな、彼女、何やりたいんだ?」
日比野は珍しく不満を漏らした。
「まあ、かすり傷みたいですけど、ちょっと彼女の行動には呆れるところがあって」
「牧のせいにしようとしたって? それも聞いたよ。幼稚園児じゃあるまいし」
「ハハハ………、工藤がいたなら彼女、おそらく雷落とされてます」
「工藤さんがいないから、やりたい放題なんだろ。参ったね。まあ、二村さんのカットを保留にして、別のカットから行くよ。セットといいまた同じシーンとなると二度手間でスタッフの手を煩わせることにはなるが、仕方ない」
日比野はスタッフを集めてミーティングをすると、次のカットへの準備に入った。
いくつかのシーンが撮影され、二時間ほど経った頃、二村が奥から出てきた。
「すみません、もう大丈夫です。撮影、行けます!」
明るい声で二村が宣言した。
「ああ、二村さん、大事を取って今日は休んでくださっていいですよ」
日比野がそう返すと、二村は眉を顰めた。
「え、でも、私、全然平気ですし、撮影できます!」
今度は不服そうなニュアンスで二村は日比野に言い返した。
「今、二村さんが出てこないカットの撮影に入っているからね、今日は休んでください」
もう一度、日比野が言った。
「ええ~? せっかくやる気になってたのにぃ」
二村の言葉があまりに自己中で、良太はつい溜息を洩らした。
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