良太は谷川に電話を入れて、牧のバックパックから財布が見つかったことを告げた。
そのあと、良太は携帯で匠を呼び出した。
「牧のバックパックから財布が見つかった」
それだけ言うと携帯を切り、後ろから皆に続いた。
ロビーに降りて、険しい顔のままの副支配人木村、日比野、牧、良太の四人は応接室に向かった。
二分と経たずに谷川と支配人、それに匠が一緒にエレベーターから一緒に降りてきた。
ややあって小杉を伴って志村も応接室に現れた。
「二村さんの財布はこれですか?」
副支配人が手袋のまま牧のバックパックから見つかった財布を二村に差し出した。
「あ! これよ! どこにあったの?」
二村は大きな声で叫んだ。
「実は、牧さんのバックパックに入っていました」
副支配人が言うなり、二村はすごい形相で牧を睨み付け、「やっぱりこの人!」と牧を指を刺した。
「絶対怪しいと思ってたのよ! すぐクビにして! 良太、早く警察に突き出してよ!」
「二村さんの部屋を物色して、財布を盗んだのか!」
二村が喚くのに続いて、下山も声を上げた。
副支配人が慌てて電話をかけようとすると、良太がそれを止めた。
「お待ちください。牧さんの言い分も聞いてからにしませんか?」
木村が支配人を見ると、支配人は大きく頷いた。
「牧さん、二村さんの言うように二村さんの部屋に押し入って、この財布を盗んだというのは本当ですか?」
良太が牧に尋ねた。
「いや、全く身に覚えがないです。どうして俺のバックパックに入っていたかもわからない」
牧は静かにそう答えた。
「白々しいったら! じゃあどうしてあんたのバックから私の財布が出てくるのよ!」
また二村がぎゃあぎゃあと喚いた途端、「あなたは黙っていなさい!」と冷ややかな、しかしきっぱりとした声で二村を恫喝したのは良太だった。
工藤のように滅多に怒鳴り散らしたりしない良太が、大きな声を上げないだけ怖ろしく怒っていることを志村や小杉は感じたし、周囲も思わず息をのむ。
「牧さん、九時前後はどちらにいました?」
「食事のあと、八時頃から十時近くまで檜山さんの部屋にいました」
「檜山さんの部屋ですか?」
「ええ、能の話を聞くために」
良太の質問に牧は淡々と答えた。
「ウソよ! 私の部屋に入って財布を盗んだくせに! 早く警察呼んでよ、良太!」
「いや、事実だぜ? 俺の部屋にいたの牧だけじゃない、園部も一緒だったから」
またキリキリと甲高い声を上げる二村に、檜山が異議を唱えた。
「まあ、九時半前後にあんたの部屋に牧が行くとかってのは、まず不可能だな」
「じゃあどうして、この男のバッグから私の財布が出てきたのよ!」
二村が檜山に食って掛かる。
するとフンっと檜山は鼻で笑った。
「それはこいつの仕業だろ?」
檜山は自分の携帯を取り出して、副支配人の前に画面を向けた。
「えっ! どういうことです?!」
映像を見た木村は声を上げると、今度は下山を振り返って睨み付けた。
「え、何ですか?」
下山は不安げな顔になった。
「それにちょうど俺の部屋で牧と園部と飲んでいた時、牧に届いた変なメール」
檜山が言うと、牧は良太に携帯を渡した。
「牧さんにどうしてもお伝えしたいことがあります。九時にラウンジでお待ちしてます」
良太はメールを読み上げた。
「牧は誰からのメールかわからないっていうんで、良太、それ返信してみろよ」
良太は返信した。
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