残月44

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 やがて日比野や浅沼も事情を知ってロビーに降りてきた。
 前後して、エレベーターから良太、谷川、小杉が降りたった。
 応接室ではすぐに警察を呼んでくれという二村と下山に対し、谷川や日比野はまず身内の潔白を証明してからにしたい、という意見で一致した。
 そこで谷川が、一人一人の部屋を訪れ、荷物検査をすることを提案した。
「二手に別れてやれば、時短になるでしょう。ことは個人の名誉の問題にもなりかねませんから、少人数で、広瀬と支配人、私と副支配人で回りましょう」
 谷川がなくなった財布がどういうものかを二村に尋ねたところ、セリーヌの淡いピンクの折りたたみ財布だという。
「では私たちは志村さんたちの部屋から行きます。良太くんたちは日比野さんらの部屋からお願いします」
 日比野や浅沼を伴い、良太と副支配人の木村は彼らの宿泊している階へとエレベーターで上がった。
「しかし、ホテルで泥棒って、この辺り、そういう事件ありましたか?」
 エレベーターの中で、日比野は木村に尋ねた。
「とんでもございません。当ホテルはセキュリティチェックも万全ですし、ましてやお客様のものを盗むようなスタッフは一人たりともいないはずです。スタッフ一人一人必ず身元調査はいたしております」
「うーん、そうするとなあ。うちのクルーとか、中には初めてのやつとかいるけど、信用してやりたいですしね」
 日比野が難しい顔で言った。
「だって、今までだって、高雄でも何日もいたけどそんな事件起きたことなかったですよ」
 浅沼も頷いた。
「とりあえず、無罪証明をするということで、皆さんに荷物チェックお願いしましょう」
 良太は厳しい表情を二人に向け、端の日比野の部屋からチェックを始めた。
 実際やってみると、荷物も多いし、プライバシーに関わるものもないとはいえないので、本人にバッグを開けてもらったり、クローゼットの中も見せてもらったりした。
 木村は手袋をはめて確認したり、ざっと見て回ったが、それらしいものは見当たらなかった。
 荷物チェックなど、当然嫌な顔をする者もいるわけで、日比野にも付き添って補足説明をしてもらい、順番に部屋を訪ねて回った。
 浅沼、良太の部屋ときて、部屋に戻っていた小杉、それから日比野の知り合いのプロダクション、アダチスタジオからワキで入っている三人の部屋へと向かう。
 三人のうち女性の佐藤の部屋は後で女性スタッフに来てもらうことにして、若手の園部、牧の部屋と続く。
 園部の荷物はバッグ一つきりで、クローゼットにも役のための衣装と上着くらいしかかかっていない。
 牧のクローゼットも同じようなもので、あとは少し大きめのバッグパックだけだった。
 バックパックを調べ始めた木村が、後ろの外側についているポケットのファスナーを開けた時、あっ、と声をあげた。
 木村が取り出したのは、ピンクの折り畳みの財布だった。
 ブランドはセリーヌ。
 木村は険しい顔で牧を見た。
「これは何ですか?」
「知りません。俺はそんなもの入れた覚えはないです」
 はっきりとした声で牧は答えた。
「とりあえず、一緒に来ていただけますか?」
 木村に言われて牧は頷いた。
「ウソだろ?」
 みんなの背後にいた日比野は唖然とした顔で思わず口にした。
 牧を伴って部屋を出ると、一行はぞろぞろとエレベーターホールへ向かうが、誰も言葉がない。

 


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