食事を終えてシャワーを浴びた良太はタブレットを開き、代役を立てるために二村が演じている役に合うような人材を探していた。
十時半を過ぎた頃部屋の電話が鳴った。
「大変遅くに恐れ入ります。広瀬様、総支配人の平岩でございます」
フロントから、それも支配人から一体何だろうと良太は嫌な予感を覚えた。
「実は先ほど二村様からご連絡が入り、財布が見当たらない、盗まれたかもしれないとおっしゃっておられるのですが」
予感は当たってしまった。
二村、いったい今度は何をしでかしたんだ?
支配人からの言葉をとてもそのまま信じる気にはなれず、胡散臭い面持ちでフロントに出向くと、奥にある応接室へと通された。
そこには二村と下山が待機していた。
「何があったんですか?」
良太が尋ねると、二村はきっと顔を上げて睨み付けるように言った。
「ちょっと部屋を離れた時に、うっかり、ドアにスリッパが引っ掛かってて、戻ったら荷物が荒らされてて、財布がなくなってたのよ!」
「それは何時頃のことです?」
良太は聞き返した。
「九時半過ぎのことよ。部屋に戻ってすぐ下山を呼んで、支配人に連絡させたのよ」
「さきほど、支配人が部屋を確認して、そのまま手を付けないようにしてあります。事務所にも連絡いたしましたが、すぐに警察を呼んで被害届を出した方がいいと」
下山が言った。
「警察を呼ぶ前に、広瀬さんの方にご連絡を差し上げました。まずは全館、広瀬さんか制作関係者の方の立ち合いのもと、お部屋を調べさせていただきたいのですが」
支配人の平岩は良太に言った。
「だって、そんな悠長なことしてたら犯人が逃げちゃうかもしれないじゃない!」
二村はキリキリと高い声で喚いた。
「そうですね、わかりました。幸い、うちの社員に元県警の刑事がおりますから、その者を呼んでもよろしいですか? あと、制作関係者には外に出ないように通達しますので、従業員の方にもお伝えいただけますか? 防犯カメラで九時半以降にホテルを出た人物のチェックなどお願いします」
「はい、わかりました」
支配人は慇懃に頷いた。
「二村さんは、危険なことがあるかもしれませんし、しばらくここで待機していてください」
そう言いおいて良太は応接室を出てロビーに行くと、小杉と日比野に連絡を入れ、窃盗事件があったかも知れないので部屋にいるようにとの通達を頼むと、谷川の携帯を呼び出した。
「すみません、谷川さん、ちょっと事件が起きまして、フロントまで降りてきていただけますか?」
谷川は何がとは聞かず、すぐに向かうと言って携帯を切った。
もし本当に窃盗犯がいたとしたら危険だとは思ったものの、被害者が二村というのがかなり引っかかっていた。
とその時、携帯が鳴った。
「匠? ああ、実は二村が部屋に泥棒が入って財布を盗まれたと言ってる。え? それはどういう? わかった、今から谷川さんと匠の部屋に向かうから」
ちょうど谷川がエレベーターで降りてきたところだった。
「すみません、谷川さん、ちょっと一緒に来ていただけますか?」
「どうしたんだ?」
訝し気に谷川は聞き返した。
「とにかく匠の部屋に行ってから話します」
ホテルはほとんどの部屋が映画の関係者や俳優陣、スタッフ、クルーたちで貸し切りのような状態だ。
既に疲れて眠っているか酒を飲んで酔っ払っているかだったが、俳優陣には小杉から、スタッフやクルーたちにはそれぞれのチーフから部屋を出ないようにということと、後ほど部屋を訪ねる旨の通達があった。
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