「局時代の同期が退社して最近フレンチの店を開いたんだ、西麻布に」
「近いんですか?」
美味いものを食べに行くと聞けば、条件反射で良太はパソコンを閉じた。
「まあ、車で五分くらいか」
「ちびたちにご飯やってきますから、ちょっと待っててください」
良太はそそくさとエレベーターに向かう。
「フレンチなんて、工藤にしては珍しいと思ったら」
見るからに欧米系の顔をしているくせに、工藤の好みはコッテリ系ではなく和風で、日本酒をちびちびやる昭和のオッサンスタイルだ。
たまに行く、軽井沢のイタリアンの店は、平造の顔なじみがシェフだからだ。
会社の前でタクシーを拾い、カミーユ、という看板の真新しいレストランの前で二人は降りた。
大通りから一本入ったビルの一階に入るカミーユは、テーブル席が五つとカウンター席のあるこじんまりとした店だった。
「よう、やっときたか」
二人を出迎えたのはスマートな紳士だった。
「オープニングに来いっても顔をみせないし」
「京都に行ってたんだ」
「ったく相変わらず仕事の鬼だな」
「フン、うちの広瀬良太、オーナーの夏川だ」
工藤は夏川の揶揄も無視して紹介した。
「広瀬です」
名刺交換をして、テーブル席に案内される。
「ん?」
良太が座ると、夏川がまじまじと良太の顔を見た。
「あ、何か?」
「いや、どこかで………、あああ、君! あのドラマの子だろ? CMも出てた? 二年くらい前? 俺、その頃ドラマで可愛い擦れてない俳優探しててさ、あのカフェラッテのCMみて、この子だ、って思って、何度も会社に電話したんだぜ? そしたらニューヨークに行ったとか何とかってさ、工藤は電話してもとりあわねぇし」
いきなりまた、良太は黒歴史を持ち出されて、たじたじとなる。
「何、この子プロデューサー? って何だよ。おい、工藤、あんとき俺、死にもの狂いで探してたんだぞ?」
「こいつはたまたま代打でやっただけだ。うちの数少ない社員だからな」
工藤が面白くもなさそうな顔で言った。
「ったくお前ってやつは………まあ、今となってはって話だけどさ。あの頃結構君のこと探してたテレビマン多かったんだぜ?」
「はあ、すみません。俺、こっちの仕事したくて」
良太はへらっと笑う。
「珍しいな、わざわざ面倒な仕事をさ」
「おい、腹が減ってるんだ」
工藤が夏川の話を遮った。
「悪い。メニューをどうぞ」
良太は牛フィレ肉のポワレをメインに、工藤は鱧のムニエルをメインに、工藤はソムリエにそれぞれの料理に合わせたワインをオーダーした。
料理を待つ間、良太は店内を見回した。
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