ペルセウスへ10

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 いつ、力が自分に対する興味を失くしてもおかしくないと、佑人はどこかで思っている。
 というより、魅力的な女性が力の前に現れた時、自分は力と普通の友達に戻れるのだろうか、仲間たちと今までのように一緒に過ごせるのだろうか、とやはり考えてしまうのだ。
 それは力を信じ切れないでいる。
 ただ、永遠にと誓った愛も覚めることがあるのも事実で。
 両親のように、幼馴染でずっと今まで一緒に仲良くいられるようなカップルもいないではないのだが、実際、華やかで誘惑が多い業界に長く身を置いている美月を信じていられる父親が羨ましいと思うこともある。
 猜疑心の塊のように思われるのが嫌で、佑人は力の前の彼女の話はなるべくしないようにしているが、本当はちょっとしたことでも嫉妬してしまう自分が情けない。
「そろそろ行くか?」
 力が言った。
「うん」
 実はこっそり風景と一緒に力を撮った。
 ちょっとした記念に。
 カップルなら、笑顔で一緒に撮るのだろうが、いや、友達同士だって撮るだろうが、何となく力は嫌だと言いそうな気がした。
 でも、もしそのうち別れたりしたらと思うと、写真の一枚くらい欲しかった。
 まあ、写真撮ろうよって言えないとか、そっちの方が問題だよな。
 佑人はちょっと苦笑する。
 仲間うちでは坂本がよく写真を撮っているので、二人で写っているのがないわけではないのだが、自分で撮ったものとはまた違うだろう。
「首都高乗らないのか?」
 ナビシートに収まった力がボソリと聞いた。
「うん。外堀通りから行く」
 エンジンをかけて駐車場を出る。
「いいけど、たまに走らねぇと、乗れなくなっちまうぞ」
「さっきは首都高走ったんだけどさ。いざ、行くぞ、みたいな心の準備をしてからじゃないとダメだな」
「今度特訓してやる」
「え、いいよ」
「遠慮するな」
 遠慮じゃないんだけど、と佑人は小声で言う。
「何だって?」
「いや、じゃあ、そのうちにお願い」
 フン、と力は背もたれにふんぞり返る。
 隣に座って、ああだこうだ注文を付けるわけではないが、降りてから、あそこはこうだったああだった、と注意してくれる。
 それはまあ初心者としては有難い。
 ってか、力も初心者のはずなんだけどな。
 まだお互いに初心者マークをつけて走っているのに、片やベテランの域って何?。
 時々疑問に思うのは置いといても、こうして二人で車に乗っているのが、佑人は好きだ。
 力の車に乗るのも、自分の車に力が乗るのも。
 二人きりの空間、という気がするから。
 カフェリリィのオーナーである力の母親の百合江には、高校を卒業する前に、力は佑人とのことを話してしまったのだが、佑人は百合江のお気に入りだったから、あんな馬鹿息子でごめんなさいね、くらいで、カフェのマスターの練やパティシエの真野をはじめ、既に仲間うちでは二人のことはオープンにしている。
 だが、佑人はまだ自分の家族には力と付き合っていることを話していない。
 まだ話す気になれないのは、どこかで、力はいずれ離れていくのではないかと思っているからだ。
 

 

 


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