ペルセウスへ17

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「いや、俺はまだ補助くらいしかできないですけど、うちの先生は犬、猫、ウサギ、ハムスターとか小動物は診ますが、やっぱ病院や先生によって得手不得手がありますから、専門っていえば、犬猫ですね。鳥とかは苦手なんで、どうしてもっていう時以外は専門医を紹介してます」
「へえ、なるほどそうだよね、得意じゃないと命を預かるんだから、えいやーではできないよね~」
 一馬はのほほんとした言葉を返しながら、慣れた手つきで肉や野菜をトングでひっくり返す。
「啓太、皿、持ってこい」
 力は目の前のものがほぼ焼きあがっているので、暇そうに食べている啓太に声をかけた。
「お前の分だけじゃなくて、もっと皿持ってきて、みんなに配れよ」
 自分の皿を差し出した啓太に焼けた肉やソーセージ、野菜を乗せてやりながら、力は言った。
「わかった」
 啓太が皿を取りに行くと、佑人も皿を何枚か持ってやってきた。
「ゴメン、任せちゃって。変わるよ」
「ああ、いいから、皿、出せ」
 力は佑人の持ってきたいくつかの皿に焼けたものを乗せてしまうと、また新しい肉を網の上に乗せた。
 力は食べて笑っている他の連中、坂本や甲本、東を睨み付けながら、てきぱきと動く。
「そういえば、こないだ佑人が子猫を保護したよね」
 一馬も負けじとトングを動かしながら言った。
「ああ、風邪引いてるやつ?」
「そうそう。カラスに頭つつかれたりしてたけど、大丈夫?」
「ええ。うちの病院で診てもらったら、一歳くらいらしいけど、捨てられて食べてなかったから、体力が戻るまで次の治療できないって」
 段ボールに入れて空き家に捨てられていたらしいと佑人が言っていた。
 おそらく飼い猫で、その段ボールに身を潜めて一週間くらい鳴いていたようだ。
「明らかに野良じゃないし、少し大きくなったからって捨てるとか、許せねえ!」
 語気も荒く、力が喚く。
「そうだよね、命なんだからねえ。他の猫に移すと大変だからって、うちの空き部屋に一匹で隔離状態で可哀そうなんだよね」
「まあ、目ヤニや鼻水がおさまらないと」
 一馬は笑みを浮かべた。
「君は正義の味方なんだってね」
「は?」
 力は思わず一馬を振り返った。
「いや、ほら、ラッキーをもらってきた時のこと、今でも思い出すよ。佑人がお遣いにいったのに、バッグに仔犬を入れて戻ってきたって、みっちゃんが」
 一馬は臆面もなく、美月をみっちゃんと呼ぶ。
「やっぱり夏だったよね、確か。仔犬が急に家族になった夜、段ボールに入れられていた仔犬を絶対責任もって飼うんだぞ! 捨てたり、保健所やったりしたら、俺が承知しない、大人にだって口を出させないって、山本力くんは正義の味方なんだって、六年生だったかな、佑人が僕らに力説してね」
「ええ…?」
 力のことを郁磨が少し語っていたのを聞いたことはあったが、佑人の家族でまさかそんな話題になっていたとは、聞かされた力は滅多になく顔を赤くした。
 うまい具合に、火に炙られているのでごまかすことができたが、佑人にそんな風に思われていたことも、嬉しい反面、こっぱずかしい。

 


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