「俺、先輩後輩とか、そういうしきりでどうとかって嫌いだし、お前、たかだかちょっとドラマに顔出したくらいで、でかい顔してるとか、衣装隠すとか、幼稚園児並みの嫌がらせだぜ? 俺にはタレントのお坊ちゃんお嬢ちゃんたちと仲良しこよしは無理」
坂本は言った。
「ああ、坂本って目立つからな。多分、役者やっていこうとかないから恐れを知らない分目につくんじゃない?」
「は! あんまりウザいと本性出そうだから、うまくやってるけどな」
佑人は苦笑しながら、「まあ、これまでもうまく切り抜けてきてるからな。ほら、カゲキメンだっけ?」とわざと口にする。
「このやろ、おちょくってるな?」
「や、まあ、爪は隠しといた方がいいって」
笑い合いながら渋谷より一つ手前の神泉駅で電車から降りる二人は、一層周囲の視線を浴びていた。
駅から二百メートルほど歩いたところに、『Sopra il Cielo』というこじんまりとした店があった。
「空の上?」
テーブルに案内されて落ち着いたところで、佑人が聞いた。
「そうそう。美味しくて空の上まで歩いていきそう、ってのがこの店のイメージなんだって」
得意げに坂本は説明する。
「うちの親がここの食器とか扱ってさ、それできてみたらメチャうまかった」
二人ともランチのコースをオーダーし、特に坂本のお勧めに従って食べたエビとウニのパスタがとても美味しかった。
「ノンアルコールワインも、結構美味しい」
佑人はノンアルコールにしたが、坂本はきっちりワインをオーダーしている。
「このワインによく合う」
水のようにゴクゴクと飲んで、坂本は一人頷いた。
「にしても、坂本も力も、酒、強いよな。まるで何年も前から堪能してたみたいに銘柄にも詳しいし」
佑人の揶揄に坂本はハハハと笑う。
「みたいにね」
ドルチェのパンナコッタは佑人も美味しいと口にした。
「ほんと、空の上で幸せって感じ」
「だよな~。それで佑人は家族に力のことを話してない罪悪感でいっぱい?」
「だからあ、いきなり本題に切り込むし」
美味しいねの続きで、佑人が考えあぐねていることを軽く口にされて、佑人は眉を顰めた。
「そんな、悩むようなことかなあ。佑人の親、力と付き合ってるからって、嘆いたり、勘当だ! とか言い出すような人たちじゃないっしょ?」
坂本の言い方に佑人は思わず吹き出しそうになった。
「何だよ、それえ。だからそういうことじゃなくてさ」
佑人は一旦言葉を切ってからまた続けた。
「力と付き合ってるんだ、って言うことは簡単かもだけど、俺、中学の時に散々家族を心配させたし、今度は男で、また俺があれやこれや悩むんじゃないかとか心配しそうで」
確かにそういうこともありだ。
だが、考えてしまうのはまたその先のことだ。
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