ペルセウスへ6

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「坂本くん、うん、でも坂本くんもお仕事で来てるのに悪いわ」
 はたと、そう言えば今日は歩きだった、と坂本は思い出す。
 クッソ、使えねえ、俺!
「あ、佑くん? 実はね、家に台本忘れちゃって、賢ちゃんに取りに行ってもらおうと思うんだけど、もう少し家にいる? あら、そう、出かけちゃうのならしょうがないわね。お義父さんに連絡入れてみる。え、世田谷のスタジオだけど………、でも………、わかった、じゃ、駐車場で賢ちゃんに渡してくれる? ごめんねえ、ありがとう」
 美月が携帯を切ると、「佑人、こっちにくるんですか?」と坂本は聞いた。
「持って来てくれるって。でも大丈夫かしら………」
 美月が心配しているのは、佑人が中学の時、半グレだか何だかから付き合っていた彼女を庇って喧嘩をしたために、女優の美月が母親だったことで、マスコミにあることないこと取り沙汰され、美月もいわれのないバッシングを受け、それが原因で佑人が中学でいじめを受けて殻に閉じこもってしまった、と言う経緯があるからだ。
 佑人もそれ以来、たまに顔を出していた母親の仕事場には一切近づかなくなったはずだ。
「何なら、俺、駐車場で待ってましょうか? そのくらいなら全然OKですよ」
「ほんと? お願いしてもいいかしら」
「任せてください!」
 坂本は笑みを浮かべて言った。
「コーヒーどうぞ」
 鳥居が気を利かせて坂本にコーヒーを奢ってくれた。
「ありがとうございます」
 見ろ見ろ! 力!
 俺様の成瀬家での印象バクあがりだぞ!
 大体、佑人にコクったのは、俺のが先なんだ!
 まあ、グズグズしてる力をたきつける目的も十パーセントくらいはあったかもだが。
 もともと、佑人が見ていたのは力のやつだってことはわかってたし。
 結果、力と佑人はくっついちまったわけだが、俺は今佑人と同じ大学のご学友だっ!
 美月にはニコニコしながら、坂本は心の中では威張っても仕方ないようなことを喚いていた。
 夏休みに入って七月には、仲間でキャンプに行ったし、力の母親がオーナーの「ワンちゃんネコちゃんとご一緒に、カフェリリー」には入り浸っているので、ちょくちょく佑人とも顔を合わせている。
 大抵、力もいるのだが。
 さっきも美月が言っていたように、佑人からBBQの誘いをもらったので、週末にはまた仲間と顔を合わせることになる。
 駐車場に行ってみると、見覚えのあるヴァンガードがちょうど入ってきたところだった。
 年式が少し経っている中古を買ったのだが、佑人は親に借金をして、バイトで律儀に返している。
「佑人!」
「あれ? 坂本? 何で?」
 佑人は不思議そうに坂本を見た。

 


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