ペルセウスへ7

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「俺、バイト。頼まれてエキストラ。なんと美月さん出演のドラマに」
 坂本が説明すると、佑人は、へえ、と笑顔になった。
「何か段々、坂本、芸能人になってく」
「やめてくれよ。あくまでもバイトだ。と、台本、預かって行こうか?」
 すると佑人は、うーん、と美月によく似たきれいな顔でちょっと小首を傾げる。
 高校まで眼鏡をかけていた佑人だが、もともと自分の殻に閉じこもるための小道具だったわけで、今はもうかけるのをやめている。
「たまにみっちゃんの仕事見てみたいし、俺持って行くよ」
「お! 何か、えらく前向きな発言! よっしゃ、行くぜ」
 並んで歩きかけて、坂本ははたと足を止める。
「久々だからあれやらね?」
「あれ?」
「オールイングリッシュ」
「ここでか?」
 佑人は少し嫌そうな顔をした。
「周りなんか気にしない気にしない。じゃ、これから日本語ナシな」
 と言うと、坂本は英語で、「この後どこか行くのか?」と聞く。
「力と約束してて、プラネタリウム」
 少しトーンを落として、佑人も英語で答える。
「ぷらねたりうむぅ?」
「スカイツリーにあるだろ? 一度行ってみたかったんだ」
「あーあ、あのカップルシートあるやつ?」
「いや、普通の席だけど」
 佑人はくすっと笑う。
「そういや、力のやつも、変に宇宙とか詳しかったりするよな」
「そうなんだ。宇宙の話とかになると、力、結構話がつきないんだよ」
「なるほど?」
 ちぇっ、二人になると実はアマアマだったりするのかよ。
 スタジオのエントランスに足を踏み入れると、撮影しているスタジオの前で、美月と鳥居がやきもきしながら待っていた。
「あら、佑くん!」
「はい、台本」
 佑人は美月に渡す。
 美月は佑人がほんとにスタジオに来られるのかとまで心配していたが、坂本と一緒に現れた佑人は笑みを浮かべている。
「ちょっと見学してみる?」
 美月も佑人が殻を破ろうとしているのだと感じて、そう言った。
「お、まだ時間あるんなら、見ていけば? 俺はエキストラで、まだ待ちだし」
 坂本が英語で言ったので、美月はちょっと笑った。
「英語の練習?」
「イエス! 佑人は俺の先生だから」
 美月に聞かれて坂本は答えた。
 やがてドアが開いて人が出て来たので、休憩になったとわかると、美月と坂本の後ろから佑人も撮影スタジオの中に足を踏み入れた。
「佑人、万が一嫌なこと誰かに言われても、胸張ってろよ」
 坂本の言葉は頼もしかった。
「Copy!」
 佑人は苦笑して答えた。
 まだほんの幼い頃、美月に連れられてドラマのスタジオに来たことを、佑人は覚えていた。
 たくさんの人がいて、いろんな人に声をかけられた。
 それとすごく強く熱いライト。
 だが、見るもの全てが初めてで佑人には面白かったのだ。


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