ペルセウスへ8

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 一度だけのことなのに幼いながらに印象深かったのだろう。
 佑人がそんなことを坂本に話すと、坂本は、案外幼児期のことって覚えていたりするよな、と言った。
「おー、龍成、龍成」
 坂本の名前を連呼しながらやってきたのは幸田監督だ。
「なになに、お前、いつの間に渡辺美月なんて大御所と知り会ってんだよ、えらく親密そうに」
 ちょっと声を落として監督は坂本に聞いた。
「俺のダチのお母さんってだけですよ。業界とかは関係なく」
「そうなの?」
 目を丸くして坂本を見直してから、「で? こちらはどこの事務所の子? 俳優? モデル?」と今度は佑人を上から下まで眺めまくった。
「違いますよ、だから俺のダチ、高校大学と同級生なんですって」
「え?」
 再び監督は佑人を凝視した。
「え、じゃあ、龍成と一緒にエキストラ、出る?」
「まさか」
 佑人は即答する。
「母の忘れものを届けに来ただけなので」
「え? え? 母って、渡辺美月、さんの息子さん?」
 つい監督の声が大きくなったため、周囲が一斉に振り返った。
 次が出番のためメイクを直してもらっていた美月は、監督が佑人に近づいたのが気になって、メイクが終わるなりやってきた。
「佑くん、ありがとう。助かったわ」
「じゃあ頑張って、みっちゃんも坂本も」
 佑人は踵を返す。
「どこに行くんだっけ?」
「プラネタリウム。力と」
「気を付けてね」
「うん。坂本、じゃ、BBQで」
 佑人は振り返った。
「おう、たのしみー! 楽しんで来いよ」
 坂本の声に送られて佑人はスタジオを出た。
 今日はプラネタリウムだけでなく、新宿に出て本屋に寄ったり、あとラッキーのベッドがボロになり、新しい犬用ベッドやグッズを買う予定なので、佑人は車を出すことにしたのだ。
 力はバイト先である河喜多動物病院から電車で来ることになっている。
 佑人は環八から首都高へ入り、錦糸町出口で降り、スカイツリー方面へと向かう。
 首都高を走るのは何度目かだが、まだあまり慣れない。
 力や坂本は、バイクに乗っていたからだろうとは佑人はあえて思いたいが、ハンドルを握らせると、まるで何年も乗っていたかのように、首都高を熟知している。
 スカイツリー近くの駐車場に車を停めると、佑人は足早にスカイツリーへと向かった。
 と、ポケットの携帯にラインの通知があった。
「今どこだ? 入り口前にいる」
 力だった。
「着いたとこ。今からエレベーターに乗る」
 と返し、エレベーターに向かう。
 ネットで買った展望台とプラネタリウムセットになったチケットは佑人が持っている。
 エレベーターを降りると、頭一つ大きな大柄な力はすぐわかった。
「お待たせ」
「大丈夫だ、まだ時間あるし」
 と言いつつも、佑人からチケットを受け取ると、力はたったか入口へと向かう。
 

 


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