力はそんなことも、佑人のことも覚えてもいないだろうし、おそらく力には些細なことだったに違いない。
それでも、常にクラスの輪の中心にいて、何をやっても目を吸い寄せられる存在であった力はスーパーマンだった。
今でもそれは変わらない。
佑人の中では。
その意味合いがかなり違うものになり、力本人の雰囲気も随分変わったとはいえ、周りから注目を浴びる魅力的な存在であることには違いはないのだ。
案の定、成長したラッキーは毛の長いシェパードという感じの凛々しい犬に育ち、ゆうに四十キロは超えてからもひたすら甘えん坊のままである。
もっとも、兄が手助けをしてくれたお陰で最低限の躾はできているので、家族のいうことは素直に聞くし、むやみに吼えたりもしない。
「ラッキーはお利口だね」
ほめてやると大きく尻尾を振って喜ぶ。
佑人がつらい時はその気持ちを気遣うようにそっとよりそってくれた。
高校生になった今でも佑人にとって一番の友達だ。
「どうしてるんだろうな、お前の兄弟」
夜、机に向かっている間も、思い出したように佑人は傍らの彼専用のベッドでゆったりと寝そべっているラッキーに話しかける。
唯一それが、力と佑人が繋がっている一本の糸だ。
未だに力には聞くことができないでいるけれど。
もしかすると永久にできないかもしれないし。
「あと、どのくらい、あいつの傍にいられるんだろ」
卒業までとは限らない。
あんなグループ、いつ解消してもおかしくはない。
いつ、佑人が相手にされなくなるかもしれない。
傍にいられる限り。
あいつの制服の背中を見ていよう。
窓から見上げると満月が煌煌と青く夜を照らしていた。
「……欠けていくばかりだな……」
マイナス思考は傷つかないための予防線。
自分の心は届かない。
あいつには届かない。
―――――もう、わかっているから。
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