ゲームが進むにつれ、力対サッカー部員の様相を呈し、既に戦い終えたチームの面々だけでなく、教室で授業を受けている生徒までがグラウンドのゲームの行方が気になって、開いた窓から観戦していた。
授業を放り出してまで見たいと思うのは力がいたからだろう。
女子など、力が走り始めた途端、男子のゲームに夢中になって自分たちのバレーボールのゲームに少しも身が入らなかったようだ。
「ほんと、あいつって、小学校んときから変わらないよなぁ」
すぐ後ろから声がして、佑人は振り返った。
「知ってるよな?」
断言的に言われて、佑人は口を噤んだまま、力と同じくらい背の高い生徒を見上げた。
「確か渡辺だったよな? 渡辺佑人。あ、俺、坂本。六年のとき、同じクラスだった、覚えてない?」
何も答えない佑人に、坂本は親しげな口調で続ける。
「俺は成瀬だけど」
佑人はようやくそれだけを口にした。
昔のことを覚えている人間がいるとは、思ってもいなかった。
坂本のこともかすかに記憶があった。小学生の頃、珍しく自分に声をかけてきた背の高い生徒。
成長期の五年といえば、見てくれはかなり変わるものだ。坂本も大人びてがっしりとした体格になり、身長も百八十は超えているだろうが、一見懐こそうな笑みは当時のままだ。
「え、前は渡辺じゃなかった? 他人の空似? 眼鏡かけてるけど、佑人って名前も同じだしさ」
できれば関わりあいになりたくはない。
「よーし、集合!」
体育教師の声で佑人は坂本から離れて歩く。
高校に進学して顔を合わせたのは二年になってからだ。
隣のクラスにならなければ忘れていたのに。
確かに日本に帰国してから中学の途中までは渡辺姓を名乗っていた。兄弟二人のうちどちらかを渡辺の跡取りにするというのは、一馬と美月が結婚する際に美月の母親が主張した条件だったからだ。
一時病気をして気弱になっていた祖母は、一家が帰国するなり、生きているうちにと言い出した。
「いいよ、僕、おばあちゃんが元気になるんなら」
宣言したのは佑人だ。
言葉通り、純粋にそれで祖母が元気になってほしいと願ったから。
誰も重大なこととは思わなかったし、家を離れるわけでもなく、生活自体はそれまでと変わりなかった。
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