何より、佑人の願いが通じたかのように祖母が健康を回復したことを皆が喜んだ。
ただ、今の佑人にとっては思い出したくもない昔だ。『渡辺佑人』であった自分や、その存在を知っている人間たちのことは。
終了のチャイムが鳴った。
七月も間近、気温はぐんぐん上がり、六時限にサッカーで一気に力を使い果たしたあとなので、みんながだらだらと校舎に入っていく。
「マジ、すっげぇよな、山本って」
「でけぇし、何やらせても、ちょっとかなわないって? あれだけ暴れてもまだエネルギー有り余ってんぜ」
「でもさ、やっぱ敵にまわしたくないって感じ?」
「だよな。裏で何やってるかわからないって聞くしなぁ」
「必要以上に近づきたかないよな」
「そうそう」
前を歩いているクラスメイト二人がこそこそ話しているのが佑人にも聞こえてくる。
さっきは声を上げて応援してたのに。
佑人はそんなもんか、と思う。
影でこそこそしてるのはお前らだろ。
でも口にはしない。
こっちに興味をもたれるのもごめんだから。
どうってことないはずの一言が誰かの心を突き刺す刃になるなんて、思ってもいないんだろう。
それが瞬く間に広がって誰かの心を追い込むことになるなんて。
―――もっとも、力はそんなことをイチイチ気にするようなやつじゃないだろうけど。
さらさらと、時間が流れていく。
夏本番を前に高校生にはやらねばならないことがある。
「うおーーーーっ! 終ったぜぇ~~!」
「カラオケだろ、カラオケ!」
終了のチャイムが鳴り終わり、答案が集められたと同時に、佑人の前に座る高田啓太が斜め前に座る東山と声高に喚き始める。
「なあ、なあ、成瀬、さっきの数学、めちゃ眠くねかった~?」
「そうだな」
子供のようにくるくる表情を変える啓太に佑人は適当な返事を返す。確かにエアコンが効きすぎて、答案を書き終わってから瞼が重くなりかけていた。
「テストで寝るやつ、おめぇくらいだって」
ペシッと東山が啓太の頭をはたく。
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