空は遠く135

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 文字を目で追いながら少しばかり没頭していた佑人はちょっと驚いて顔を上げた。
「あ、ごめん、ごめん、邪魔するつもりはなかったんだけど、こんなとこ俺しか来ないと思ってたからつい嬉しくて」
 佑人の方こそ、こんなところへ好き好んでくるような者が他にいると思っていなかったので、しかも声をかけられるなんて予期していない出来事で面食らった。
「成瀬くんだよね? Aクラスの。俺、一度君と話してみたかったんだ」
 すぐに立ち去ろうとしたが、名前を呼ばれて佑人は一瞬構えてしまう。
「あ、俺、Dクラスの上谷」
 佑人よりわずかばかり目線が上にあるその生徒を、佑人はようやくしっかり見やる。
 上谷と名乗ったその生徒のことは、さすがに佑人でも知っていた。
 夏前の選挙で生徒会長に就任した上谷高志は、亜麻色の髪は自前という、母をアメリカ人に持つ帰国子女だった。
 ひたすら自分を押し殺して、学校の授業以外で英語なんか口にしようとも思わない佑人とは正反対で、何かというとすぐ流暢な英語を口にする、それでもひけらかすというのではなく自然で、しかも日本語の方でもさり気ないユーモアを交えた会話が嫌味ではなく、半分アメリカ人のルックスも手伝って、生徒会選挙の頃から女子の間ではその人気はうなぎ上りだ。
 爽やかなイメージは生徒会長として、女子ばかりでなく好感をもたれている。
 成績は二〇番台だが、アメリカ生活が長かったからか現国や古文、日本史などが苦手なせいらしい。
 それらは全て、昼休みに教室で一人、サンドイッチを齧っていたりする時に、女子のグループが声高に話しているのを聞かされた情報だ。
 だが、その上谷と自分に接点があるとは思っていなかったし、上谷が自分を知っていて、話してみたいなどと言われるとは思いも寄らなかった。
 


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