「あ、ごめん、俺の従弟、上谷って君と同じクラスだったんだって覚えてないかな? 中学の二年と三年の時? 夏休みに会った時、たまたま中学時代の話になってさ、渡辺美月の息子がいて問題起こしたみたいな話になって、二年の時のクラス写真見せてもらって、あれって思ったんだ」
知らず冷や汗をかいた拳を佑人は握り締めた。
「……だから、何?」
そこまで言われて人違いだと言い張るのも何か滑稽な気がして、佑人は上谷を振り返って睨みつける。
「あ、そんな怖い顔しなくても。知られたくないから、名前も変えてるんだよな?」
「吹聴して回るようなことでもないだろう? 名前は元々成瀬だ」
上谷は軽く笑った。
「いや、だからさ、俺は別にそのことで君を脅そうとか、そんなんじゃないし」
「俺を脅したところで、君に何かメリットがあるとも思えないけど」
心が冷えていくに従って、言葉もひどく冷たくなる。
「だから、別に君が言いたくないんなら俺も黙ってるし。ほら、ここはほとんど人が来ないから誰も聞いちゃいないって。あ、それに、写真見て俺はわかったけど、従弟には君のこと話したりしてないから」
「別に話したければ話せばいい」
これ以上この男といることがムカついて、佑人は踵を返す。
変な噂を流されたところで、失うものはない。
もともと、高校で友達を作ろうとか、楽しみたいとか、下らない期待を持っていたわけではない。早いとこ大学を出て、独り立ちして、家族にもう迷惑をかけたりしないようになりたい。
やはり、いっそ留学してしまった方がいいのかもしれない。アメリカなら飛び級という手もある。
ここに留まっていたかったのは、ただ、力の存在があったから、それだけだ。それも今となっては、もう、いいのだ。
どのみち、力とは言葉を口にすればいがみ合うだけで、これ以上どうにもならない。―――――もう、あの背中を見つめていることさえ、苦しくなってきた。
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