空は遠く153

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 キャサリンの焼いたキッシュやローストビーフ、デザートのプリンも美味しく、キャサリンからいろいろと他愛もない話を聞きながら気がつくと八時を過ぎていて、佑人はそろそろ帰ると立ち上がった。
「どうせなら、一緒に数学を片付けないか? タクシーで送っていくよ」
 上谷の申し出を断ろうとした時、携帯が鳴った。
「あ、うん、今、友達のとこ。北烏山」
 郁磨からだった。
 家に帰ったら誰もいないから心配してかけてきたらしい。
「うん、わかった」
 兄が車で迎えに来てくれるのでというと、上谷は目に見えて面白くなさそうな顔をした。
「残念だな。またいつでもおいでよ」
 ナビでマンションの下まで来てくれた郁磨の車に乗り込むと、そこまで送ってきた上谷は郁磨にも愛想よく挨拶した。
「帰国子女同士、うまが合うみたいで」
 上谷は勝手にそんなことを言った。
「珍しいね、お宅に伺うくらいうまが合ったんだ? 上谷くんと」
 郁磨は佑人に新しい友人ができたことを素直に喜んでいるようだった。
 そんな兄には申し訳ないが、上谷やキャサリンはいろいろ話してくれたけれど、佑人の方はボストンにいた頃のことを少し話したくらいで、うまが合うほどの親しさでは全くない。
 ただ、そんなことをわざわざ言ってしまうのも気が引けて、キャサリンがひどく歓待してくれたのだとポツリポツリ口にする。
「佑人、もし、向こうの大学に行きたいのなら、自分の思うように進んだ方がいいと思うよ」
「え……うん……そうだね……」
 きっとその方が自分には合っているだろう。
 だが、答えをはっきり出せないのは、漠然とだが心のどこかにひっかかりがあるのだとは佑人も気づいていた。

 


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