佑人も訝しげに振り返る。
「何だよ、お前」
東山があからさまに嫌そうな顔をした。
そうだ、冗談じゃない。
佑人も思わず眉をひそめる。
「塾で忙しいんじゃねぇのかよ?」
からかい気味にたずねる力に、「気分転換は必要さ」と、坂本は人懐こそうな笑顔を向ける。
数日前、声をかけられるまでは佑人も気にとめもしなかった。
学年で五番を下回ったことがなく、T大志望で合格は確実といわれ、学年では有名人らしい。全国模試でも常に上位をキープしている。
「別にかまわねぇだろ」
佑人の思惑とは裏腹に、力が言った。
アスファルトの熱気にうだりながらいつも使っている私鉄の改札口を通り、JRの駅の方へと抜ける。
駅から数分の七階建てのビルの中に、カラオケボックスがあった。
ここまで歩いてくる間にも、シャツは汗でぐっしょりになった面々は、エアコンが効いているビルの中になだれ込んだ。
「うーーー、生き返るぜぇ」
啓太がシャツをはたはたと扇ぎながら、オヤジのような台詞を吐く。
「げぇえ、やっぱ、今年一番の暑さだってよ」
うんざりとした顔で東山が携帯を覗き込んでいる。
「成瀬ってさ、暑いの得意なんだ?」
ふいに啓太に問われて佑人は答えに迷う。
「だってさ、暑くっても涼しそうな顔してるし、いつもボタンとめてビシッとしてるしさ」
「バーカ、おめぇがダラシナサ過ぎなんだろっ」
東山が啓太の頭をはたく。
「慣れているんだよ。うち、異様に暑くないとエアコン使わないし」
「ほんとかよ! すんげー」
何がすごいのかわからないが、啓太は妙に感心している。
暑い夏も寒い冬も祖父の道場でかなり鍛えられたこともあるが、家の周りは緑だけは多いので、窓やベランダの戸を開け放して風を通すのが昔から成瀬家のやり方だ。
街中に出れば佑人も当たり前に熱気にむせ返りそうになる。
エレベーターで七階に上がり、ドアが開くと同時にカラオケボックスの受付嬢が、いらっしゃいませ、と彼らを出迎えた。
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