空は遠く18

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「うっせぇぞ」
 力の怒鳴り声すら二人には効かないらしい。
 それからアニメソングのオンパレードだ。力も東山もくわえ煙草で振り付けつきで歌いまくる。
 佑人は唖然といった態で、皆が歌うのをぼんやり聴いていた。
 そんな茶目っ気のある力の姿が微笑ましくさえ思えて。
「よし、次、成瀬、歌えよ」
「いや、俺、知らないし……」
 坂本に腕を取られて、佑人は慌てて遠慮しようとした。
「カラオケ来て歌わねぇでどうすんの」
 無理やり肩を抱かれて、一緒にマイクを握らされる。
「……Yesterday all my troubles seemed far away―」
 アニメソングとは一転、坂本の口から英語の歌詞がこぼれる。
 それは佑人が子供の頃ボストンの小学校で、担任がよく歌ってくれた歌だった。歌詞を見なくても空で覚えている。今あらためて口にすると、自分の心情に妙に符号して佑人は心がざわつくのを覚えた。
 ふいに目を上げると、いきなり自分を睨みつけるかのような力の剣呑な眼差しに出くわした。
 最後は歌にもなっていなかった。
 きっと力は、場違いな曲を歌う自分に腹を立てたのだ。
「俺、これから用があるから、俺の分ここに置くからね。お先に」
 佑人は曲が終るや、ボックスを飛び出した。
「え、おい、成瀬!」
「成瀬、帰っちゃうの?」
 坂本や啓太の声が追いかけてきたが、とりあえず料金は皆の分合わせても充分お釣りがくるだけは置いてきたし、彼らも不満はないはずだ。自分の役目は果たしたのだから。
 ラッキー、と喜んでいるだろう啓太や東山の顔が容易に想像できる。
 あんな目で睨まれたら、いたたまれない。
 いい気分をぶち壊しやがってなんて、力は思っているかもしれない。
 力が気分を害して、せっかく力の傍にいられるようになった時間が、それこそぶち壊されるのは嫌だった。
 坂本のお陰で!
 佑人は、いきなり割り込んできた坂本の存在に苛立ちを覚えた。
 それに――――
 坂本は、小学校の時いたはずの『渡辺佑人』イコール成瀬佑人だと、気づいているようだ。そのことを力に話すのではないかと不安になる。

 


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