空は遠く268

back  next  top  Novels


「てめぇ、くだらねぇこと言ってんじゃねぇぞ!」
 一瞬、突拍子過ぎて宗田が何を言っているのか把握し損ねた力だが、次には診察室を出て行く宗田に声を荒げてくってかかる。
「ああ? 激マジだぜ? 男とかそういうの頓着しないしな、俺」
 あっけらかんとした口調で振り返る宗田を、力はぶん殴りそうになるのを拳を握ったままぐっと堪える。
「てめぇ……」
「あれれ、ひょっとして、お前らってそーゆー仲? じゃねぇな、さては一方的に懸想して肘鉄食らわされたってクチだな? 力ちゃん」
 胸の内に土足で入り込まれたと思うや、力は何もかもが簡単に曝け出された気がした。
 ブンと突き出された拳は空を切り、宗田はひょいと軽くそれを躱していた。
「こらこら、俺にあたってどうすんだよ。喧嘩慣れしてんのはお前だけじゃねぇの、ニューヨーク長かったからな、それなりに鍛錬つんでんの」
 フン、と無精髭はふてぶてしく笑う。
「ここんとこ、ご無沙汰だったからな。久々、俺のハートにずきゅんときた子を口説かない手はないしな」
「いい年して、何がハートだ!」
「恋するのに歳なんか関係ねぇぜ? 力ちゃんみてぇなひよっこに負けるわけねぇだろ、経験値がものをいう」
「貴様なんかに渡してたまるか、エロジジィ!」
 廊下を母屋の方に歩いていく宗田の背中に、力は思わず怒鳴りつけた。
 声に出してしまってから、宗田の宣戦布告のせいで、力ははたと目を覚まさせられたような気がした。
 くそっ!
 おさまりきらないイラつきで拳を壁に打ち付けた。
「どうしたの? 力ちゃん、大きな音」
 休憩室で食事をしていた看護師の木村が顔を覗かせた。
「…何でも」

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ