ACT 2
佑人の父親がボストンの大学に客員教授として招かれて一家が渡米したのは、佑人が小学生に入る前のことだった。
滞在した五年間ほど、佑人は兄の郁磨とともに地元の小学校に通い、日本語はまるで通じないところで現地の子供たちにはすぐに溶け込み、今でも兄弟はネイティブに近い英語を扱うことができる。
佑人が五年生の夏、一家はボストンから世田谷に戻ってきた。
二学期から、佑人は歩いて三十分ほどの公立の小学校に編入したが、早くも壁にぶつかった。
初めて通う日本の小学校に佑人は戸惑っていた。
何事にも一生懸命だが兄ほど要領はよくない。
知らず知らずのうちに英語が口をついて出たりするのに、クラスメイトは物珍しげに一歩下がって佑人を見た。
しかも、周りの女の子よりどれほどか可愛い上にアメリカ帰りで成績もいいという佑人を、クラスの女子がちやほやするのがクラスの男子は面白くない。
佑人は何かにつけて仲間はずしにされた。
次第に一人でいることが多くなった。
それでも佑人を優しく育んだのは家族だ。
行儀や言葉遣いなどには厳しいが、普段はそれこそ目に入れても痛くないほど佑人を可愛がっている祖父や祖母、物理学者でブラックホールの研究に没頭している時はなりふり構わずの父親もたまに家にいる時は、息子たちのよき遊び相手だ。
父の一馬と母の美月は生まれた時から隣同士、幼馴染みでそのまま今も子供の前でさえ、かずちゃん、みっちゃんと呼び合うほど仲がいい。
ここで佑人の生い立ちに少なからず影響を与えてきたのは母が有名女優渡辺美月であることだった。
まだ佑人が三歳にもならない頃に、美月は熱狂的なファンに追われ、抱いていた佑人が怪我をするという経験をしている。
それ以来、美月は子供たちをマスコミから遠ざけ、マンション住まいをやめて、二人を一馬の父に託すように一馬の実家に一家で身を寄せた。
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