これだから1

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 帝都ホテル本館二階、朱雀の間で年明け二日から始まった日本橋の老舗呉服店『大和屋』の展示会イベントは盛況だった。
 希望者を募って展示会場で行われている着付けのサービスも成人式や卒業式、謝恩会などを控えた若い女性で賑わいを見せている。
 今回はCMも規模を縮小したものの、効果は如実に表れており四日に予定されている着物ショーの前売りチケットは完売で、二日には招待客をはじめ大和屋の会員を対象として、展示会とは廊下続きの茶室を利用して茶の湯が催されているが、朝から華やかに着飾った女性客を中心に出足は上々だ。
 CM制作に関わったクリエイターの佐々木は、クリエイターとしてではなく、母親の淑子、つまり陽世院流師範佐々木淑陽が一門を率いて茶の湯を取り仕切っており、今年も茶席から離れることもできず、大和屋で仕立てられた着物と袴を着けて、ひたすらお茶を点てていた。
 クソ、はよ、終わらんかな。
 すました顔でお茶を点てながら、佐々木は心の中ではそんなことを呟いているのだが。
 昨年のイベントでは、クリエイターというには稀有な美貌の主である佐々木を取材対象とした女性誌もあったりして、今回訪れた客の中には、最初から佐々木目当ての女性客も多々おり、佐々木を一目見たいがために『大和屋』の会員になり俄か作法で茶の湯の席に入ってきたりしている。
 裏方やお運びで走り回っている佐々木のアシスタントかつ淑子の弟子である池山直子は、まただわ、と佐々木目当ての女の子たちを見抜いて呟いた。
「ちょっと浩輔ちゃん、大丈夫?」
 その時直子は、慣れない裏方で先輩弟子にこきつかわれて情けない顔をしている西口浩輔に気づいて声をかけた。
「お茶ってもっと優雅なものかと思ってたけど、重労働なんだね」
「今からへこたれててどうするのよ。ピークはお昼過ぎよ」
「ひええええ」
 悲鳴を声に出す浩輔にはっぱをかけて、直子は足早に水屋に去った。
 浩輔はこの『大和屋』のイベントをプロデュースした代理店プラグインのデザイナー兼担当者だが、佐々木が以前籍を置いていた弱小代理店ジャストエージェンシーでは佐々木の部下でもあり、直子の同僚で二人は仲がよかった。
 その後、浩輔がジャストエージェンシーに入る前の会社の上司だった河崎と藤堂が今のプラグインを興すにあたり、浩輔はそちらに移籍し、また、佐々木が独立する際に、ジャストエージェンシーから出向の形でアシスタントとなった直子とは、それぞれに行き来があった。
 たまたま、俺もお茶、やってみようかな、と呟いた浩輔をあれよあれよという間に直子が自分の師匠である佐々木淑陽の門下に引き込んでしまったのが、昨年末のことである。


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